人間関係

子どもが独立、再び“ふたり”になった還暦夫婦の悩み。過去にすがる「非エリート」夫の謎(2ページ目)

夫婦ともども60歳を超え、子ども二人も独立。妻はパートにジムにと忙しいが、夫は過去の思い出を語るばかり。旧友と会ったり、新しいことでもすればいいのに、自分ひとりで何かする気も無いようで、このまま老け込んでしまいそう。目下の妻の一番の心配ごとだ。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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エリートではなかったから……

夫が学生時代の友だちに会いたがらないのは、周りに比べて自分が大手企業に入社できなかったかららしい。

「ずっとコンプレックスを持っているみたいです。別にいいじゃないですか、会社の規模で人の価値が決まるわけではないんだから。ただ、夫はそこそこの大学へ行ったから、周りはやはり大手だの国家公務員だのが多いみたい。でもたまに連絡があるらしいんですよ、同窓会とか。でも行かないの。60歳にもなって、つまらないプライドが邪魔しているんでしょうね」

だったら高校時代の友だちはと尋ねたら、「ずっと会ってないから」と消極的な答えが返ってきた。連絡先を知っている人はいるのだから、連絡をとってみればいいのにとカナエさんはため息をついた。

「それで子どもたちが小さいころのこととか、さらに遡って私たちが10代だったころに流行ったCMや映画や歌謡曲について話したがる。食卓でも、『そういえばこんなCMあったじゃん』って。私が覚えていれば話にも乗れるけど、これがまたほとんど覚えてなくて……。いつも夫を失望させてます」

過去にしがみつく夫、今を楽しみたい妻

彼女は、過去にしがみつくのがとても嫌なのだそう。だから「今日はこんなことをした、明日はあそこへ行く」という話をしたいのだ。だが、新しいことが自分に起こっていない夫は、その話に乗ることができない。

「30年の間に何が変わったんでしょうね。ずっとふたりで今日と明日について話してきたような気がするんだけど、結局、違う方向を見ていたのかもしれないなと思います」

この秋、カナエさんは遅い夏休みをとる娘とふたりで海外旅行をする。それが楽しみで、今は行き先の情報をネットで調べる日々だ。そんな彼女に、夫は恨めしい顔をして「楽しそうでいいね」と言う。

「夫も誘ったんですよ。でも行かないって言うから。いまさら楽しそうだねと言われてもね。だから『うん、楽しいよ。あなたも楽しいことを見つけたほうがいいよ』と背中を押していますが、夫は生返事。楽しいことが嫌いなのか、楽しいことに飛び込むのが怖いのか。もともとまじめな人ではあるけど、誰だって楽しいことは好きなはずだと思うんですよね」

年月が夫を変えたのか、夫の生来のまじめさが凝り固まってきたのか、そこが謎なんですとカナエさんは苦笑した。

「このまま夫がどんどん老いていくのが不安。それが今の私のいちばんの懸念です」
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