Q. 「緊張感を和らげるために風邪薬を飲む」のは、いけないことですか?

【薬学部教授が解説】薬の目的外使用はなぜだめなのでしょうか? ソーシャルメディアの中には「緊張感を取るために風邪薬を飲む」といった情報が出回ることもあるようですが、何が危険で、どうしていけないのか、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

Q. 緊張感を取るために風邪薬を飲む人がいるそうです。効果があるのでしょうか?

薬を飲もうとする女性

本来の使い方ではないけれど……薬の力に頼っても大丈夫?


市販薬の乱用などが問題になっていますが、ネット上では本来の使い方から逸脱した薬の情報が出回ることがあるようです。何が問題なのか、わかりやすく解説します。

Q. 「テストや面接などで緊張しすぎて力を発揮できないことがあるのですが、最近、『強い緊張感からくる息苦しさを軽くするために、風邪薬を飲む人がいる』という話を聞きました。さほど副作用もないなら試してみたいと思うのですが、気をつけることはありますか? 風邪薬の効果として緊張感の緩和などは書かれていないようですが、効果の軽そうな市販薬でも、試すのは危険でしょうか?」
 

A. 危険ですし、一回試すだけでも「薬の乱用・違法行為」です。やめましょう。

すべての薬を使うときには、認められた用法・用量を守ることが求められています。それを逸脱することは「乱用」に他なりません。違法な薬物を何度も繰り返し使用することが「乱用」だと思っている方が多いかもしれませんが、使用が認められている医薬品であれ、不正な使い方をすれば一回だけでも「乱用」であり、違法行為となります(罰則の有無や内容は薬物の種類により異なります)。

薬局で買える市販の風邪薬にはいろいろな薬効成分が入っていますが、そのいずれも、風邪に伴う諸症状を緩和する目的で使うことが認められているものですから、風邪をひいていないときに使うのはすべて不正な使い方で、違法行為です。ソーシャルメディアなどでは「風邪薬でドーピング」といった表現も見られますが、そもそも「ドーピング」の意味もはき違えていますし、完全な誤用です。

薬には必ず良い作用と悪い作用があります。何らかの病気にかかっているときは、病気を治すのに役立つ主作用が悪い作用を上回るというメリットがあるからこそ、薬の使用が認められているのです。病気にかかっていないときに使うと、悪い作用だけが現れてしまう恐れがあります(詳しくは「発熱予防に解熱剤を飲むべきではない2つの理由」をあわせてお読みください)。そのため、すべての薬は目的外の使用が禁じられているのです。

また、風邪薬の中には、呼吸を楽にする成分の一つとして「メチルエフェドリン」が含まれています(詳しくは「過量服薬などの依存性・副作用リスクも…市販薬で注意すべき6成分」をお読みください)。メチルエフェドリンは、気管支を拡げる作用をもっていますが、覚醒剤に似た化学構造をしているため、大量摂取すると覚醒作用も生じます。法制上は、覚醒剤には該当しませんが、「覚醒剤原料」に指定されています。スポーツ選手の場合は、メチルエフェドリンを含んだ風邪薬を飲むと「ドーピング」とみなされ、失格となります。

さらに、認められていないとわかっているのに不正な薬の使い方をするような方は、心に問題を抱えており、薬物依存症になる可能性が高いです。詳しくは「Q. 覚醒剤は一度だけの使用でも、本当にそこまで危険なのでしょうか?」をぜひあわせてお読みください。

薬物依存症は、薬物そのものの性質だけで生じるわけではありません。学校や仕事がつまらない、友だちとうまくいかない、人間関係に悩んでいるなど、嫌なことや困っていることがあり、そこから逃れようとして薬に頼ってしまい、薬物依存症になるのです。一時的に薬に頼ってみても、根本的な問題は解決しないので、同じような場面になったときに再び薬に頼ることを繰り返し、やめられなくなってしまうのです。場合によっては、風邪薬にとどまらず、大麻や覚醒剤などに手を出してしまうようになることもあります。

困ったときは、「モノ」に頼るのではなく、信頼できる「人」に頼ることが大切です。
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