離婚後も会いにくる夫を拒めない
離婚しても、夫はときおりキミカさんに会いに来た。決して娘に会いにくるわけではないのだ。「子どもはきみが勝手に生んだ」という姿勢を崩さなかった。養育費も出さない。それなのにキミカさんはやって来る夫を拒否できなかった。
「夫はひたすら私を口説くんです。『やっぱり僕にはきみしかいない』『きみの笑顔だけが僕の生きがいなんだ』って。こういうことを言うのは、ものすごく恥ずかしいし自己嫌悪に陥るんですが、私、やっぱり強烈に求められるとうれしいんですよ。生きていていいんだという気になる」
それにはキミカさんの生育歴がからんでくる。彼女は親からの愛情を感じられずに育った。子どものころから母親に何を言っても無視され、母は姉ばかりをかわいがった。そのため、姉は大学卒業後、就職に失敗して家にとどまり、同時期にキミカさんはわざわざ遠方の大学に入学、18歳で家を出た。
「結局、姉はいまだに家で親と暮らしています。私自身はああならなくてよかったと思ってはいるけど、家庭の影響で、強烈に求められるとたまらなくうれしくなる。だから離婚しても元夫を斬り捨てるようなことはできなかったんです」
「勝手に産んだ」娘が抱く父への感情
それでも、成長していく娘は父親を嫌っていた。ときどきやって来るものの、父親らしいことは何ひとつしないのだから、娘が嫌うのは当然だろう。「娘はもう高校生ですが、小学校高学年のころから『お母さん、お父さんに来るなっていいなさい』『苦労させられて、どうしていまだに甘い顔をしているのかわからない』と非難されてきました。だから娘が中学に入ったころ、ちょうどコロナ禍もあったので元夫とはたまにLINEで連絡をとりあうくらいでまったく会っていなかったんです」
だが、つい先日、彼も来るかもしれないと思われる場所でのイベントへ、彼女は出かけていった。イベント自体が4年ぶりだったのだが、それは彼と以前、何度か一緒に行ったものだったのだ。
「顔を見る前から、気配を感じました。私が歩いていく先に元夫がいるとわかっていた。そして当然のように会いました。イベントが終わってから彼と朝まで飲み明かしました。今でも『僕が好きなのはきみだけ』『僕の人生にきみが必要なんだ』と言う。だからといって、しつこく復縁を迫ってくるわけでもないんですよ。彼は自分の都合のいいときに私がそばにいるのを望んでいるだけなんです。それも結婚生活をともにしたからわかってる。だけど私自身、そうやって求められていることが好きなんですよね」
彼がこの世にいる限り、私は彼に翻弄されるのかもしれない。これもまた共依存といえるんでしょうねと、彼女は苦い笑みを浮かべた。