表面的にうまくいっていれば問題は起こらない
娘を溺愛する夫を見ていると、離婚する気にはなれない。リナさんは、とりあえず何でも夫にお伺いをたてる。「相談ごとをLINEで箇条書きにして夫に送っておくんです。そうすると仕事を処理するように指示が来る。その通りにしていれば夫は文句は言わない。親戚づきあいなどめんどうなときは、簡略化を提案すると『それでもいいよ』と返事がくる。つまり、家庭は私にとって職場で、夫は相変わらず上司であると思っていれば問題は起こらない」
上司は年に1度か2度、優秀な部下にご褒美をくれる。それが結婚記念日のディナーだったり、リナさんが気になっていたバッグだったりする。その代わり、あとの日はすべて上司に尽くす部下でなければならない。
夫が「したい」と言ったら体を貸す
「私は夫とのセックスに興味はないけど、夫がしたいと言ったら体を貸します。夫はどうやら役員を目指しているようで、夫が出世するためにも夫の性欲を満たしてあげないといけないかな、と」思い通りに出世できるかどうかはわからない。だが、そのときはそのとき。今まで尽くした分をお金に換えて離婚するだけだとリナさんは覚悟を決めている。
「夫は私の親の前では、いい夫を演じてくれている。だから私も夫の親や親戚の前ではいい妻を演じています。近所の人の手前、仲のいい家族を演じてもいる。でも私の娘への愛と、夫の娘への愛は本物だと思ってる。それでいいんじゃないかとも感じています」
夫に「部下」扱いされているし、少なくとも夫は自分に敬意は抱いていない。それがわかっていながらも、愛情あふれる夫婦を演じていることに、リナさんは一時期、悩んだという。だが悩んでも何も生まれない。離婚したら娘にとっては損失だ。だからリナさんは自ら仮面夫婦であることを選択した。
「どうせなら、夫にとって完璧な仮面妻でいようと思ったんです。この役割を楽しむくらいの気持ちで。我慢していると思ったらやっていられないから。夫には何も期待していません。暴力はないけど、言葉でどれだけ傷つけられたかわからない。でもそれももう、傷つかないと決めたんです。娘が自立するまでは、この仮面妻を演じていきます」
リナさんの妹は、リナさんが結婚したときから「あの男は裏表がありそうで信用できない」と言っていた。妹は今も「本当にいいの? 大丈夫?」と心配してくれるが、リナさんの「演じる決意」は固い。平穏な生活を最優先させる、こういう覚悟の決め方もある。