沖縄の観光・旅行

お金を燃やして“あの世”に届ける!? 仏壇に“ツナ缶”を供える? 衝撃を受けた「沖縄のお盆」事情

先祖や伝統行事を大切にする沖縄で特に重要な「お盆(旧盆)」は旧暦7月13~15日に行われ、本土のそれとはちょっと違っています。ご先祖様とみんなで一緒に過ごす「沖縄のお盆」事情を、現地在住の筆者がご紹介します。※サムネイル画像:(C)OCVB

稲嶺 恭子

執筆者:稲嶺 恭子

シンガポール・沖縄ガイド

沖縄の伝統舞踊エイサー

沖縄の伝統舞踊エイサーは、本来はお盆に行われる (C)OCVB

沖縄には、地域独特の風習や行事ごとなどが多くあり、お盆も本土のそれとはちょっと違っています。沖縄の人の生死に対する考えの根っこには先祖崇拝や自然崇拝があり、宗教や宗派などにこだわった葬儀や法事などが行われることはほとんどありません。

そして、亡くなってしまっても、ご先祖様の霊は時々家に帰ってくるもので、その“時々”のひとつがお盆。そして、久しぶりに帰ってきてくださるご先祖様の霊を、一族みんなでもてなすのです。今回はそんな、「沖縄のお盆」について紹介します。
 

沖縄のお盆は旧暦で行われる

沖縄の重箱料理。旧盆や正月などの年中行事には欠かせない (C)OCVB

沖縄の重箱料理。旧盆や正月などの年中行事には欠かせない (C)OCVB

沖縄では通常、旧暦をベースに行事を行うのですが、お盆ももちろん旧暦で行います。そのためか、沖縄では「お盆」という呼び方ではなく、「旧盆」と呼ぶのが普通です(本稿でも以後「旧盆」と表記します)。

本土のお盆と同じく、沖縄のローカル企業や官公庁、学校などでは旧盆はお休みです。先祖や伝統行事を大切にする沖縄では、重要な年中行事である旧盆に実家に帰っていないと「おじぃやおばぁにすごく怒られる!」という家は珍しくなく、県外からわざわざ帰省する人も少なくありません。

また、沖縄の年中行事では、とくにおばぁやアンマー(沖縄の言葉でお母さん)は準備に大忙し。そのため、市場や食堂、商店などもほとんどがお休みとなります。さらに、旧盆中は実家や宗家へ移動する地元民の車で、渋滞も発生します。この時期に沖縄に観光に来る人は、気を付けてくださいね。
 

沖縄のお盆のタイムスケジュール

沖縄風炊き込みご飯、ジューシー。旧盆の初日にいただく (C)OCVB

沖縄風炊き込みご飯、ジューシー。旧盆の初日にいただく (C)OCVB

沖縄のお盆は旧暦7月13~15日(2023年は8月28~30日)です。それぞれの日にどんなことをするのか、時系列順に簡単にご紹介しておきます。
 
旧暦7月7日:お墓掃除とご報告
沖縄では、決められた日にしかお墓に行ってはいけないという決まりがあります。旧暦の7月7日はそのうちの1日で、この日にお墓を掃除し、お盆が近づいてきたことをご先祖様にご報告します。
 
旧暦7月13日:ウンケー
盆の入りで、あの世からご先祖様の霊を家の仏壇にお迎えする日です。仏壇を掃除して、お供え物をそろえます。
 
夜になるといよいよご先祖様をお出迎えします。家長から順にヒラウコーという沖縄の線香を2本ずつ拝しながら、まるでそこにご先祖様がいるかのように、名前を言ってからご報告を述べていきます。そして最後は、ウンケージューシーという沖縄風炊き込みご飯を、ご先祖様と一緒にいただきます。
 
旧暦7月14日:ナカヌヒ
ナカヌヒには、ムチスクとも呼ばれる、仏壇がある宗家に親族が集まってきます。そのとき1000~2000円ほどの手土産を持って行くのですが、この手土産は仏壇に供えられます。
 
「何時に集合」という約束をするでもなく、「今から行くよ」という連絡をするわけでもなく、仏壇のある家に1日中なんとなく人が途切れず訪れてくるのも、個人的には沖縄らしいなと思っています。
 
旧暦7月15日:ウークイ
ウークイはご先祖様をお見送りする日です。宗家の家長が仏壇で“拝み”をすることから始まり、ひと通りみんなの拝みが終わると、重箱のお供え料理をご先祖様と一緒にいただきます。これをウサンデーといいます。このときも、そこにご先祖様がいるかのようにお箸やお皿をそろえ、お供え物を取り分けます。ウサンデーが終わったら、最後は門前でご先祖様をお見送りして終了です。
 
沖縄の伝統舞踊として知られるエイサーは、ウークイに行われるものです。本土の盆踊りなどと同じく、ご先祖様をお見送りするための舞踏で、この日は沖縄各地で執り行われます。
 
ここでは、お盆の各日をざっとご紹介していますが、3日間それぞれに行うことやいただくもの、拝みの言葉などが細かく決まっています。3日間を実際に過ごすことで、沖縄の中でも旧盆が特に重要な年中行事であることが、よくわかります。
 

衝撃だったウチカビとツナのお供え

これがウチカビ。沖縄ではスーパーでも購入できる

これがウチカビ。沖縄ではスーパーでも購入できる

筆者は本土から沖縄に嫁いできた「ヤマト嫁」。そのため、沖縄の旧盆には、いろいろと驚かされることが多かったのですが、中でも衝撃だったのが「ウチカビ」です。
 
ウチカビとはあの世のお金のこと。ご先祖様があの世で使われるそうで、これをウークイの日にご先祖様に持って帰ってもらうのですが、その方法がすごかった。なんと家の仏壇の前でガンガン燃やしていくのです。いわゆるお焚き上げですが、このまま家も燃えてしまうんじゃないかとかなりビックリしました。
 
もうひとつ、ナカヌヒに親族が持ってくる手土産にも驚きました。特に多いのがツナ缶のセット、ソーメン、お米、洗剤などの衛生用品セットなどで、とにかく生活密着型な品々が仏壇の前に供えられていきます。旧盆前にはスーパーなどでも手土産用のセットがたくさん販売されています。本土だと、お盆のお供えや手土産には和菓子などが主流だと思うのですが、ツナ缶を仏壇に供えるというのも、沖縄ならではの光景ではないでしょうか。
 

沖縄のお盆にかかせない三枚肉と白ムーチーとは?

白ムーチーもスーパーで購入できる。最近では、黒糖やフーチバー(沖縄の言葉でニシヨモギのこと)が練りこまれたものもある

白ムーチーもスーパーで購入できる。最近では、黒糖やフーチバー(沖縄の言葉でニシヨモギのこと)が練りこまれたものもある

旧盆では、お供えの重箱料理が用意されます。沖縄の重箱料理も島独特のスタイルなのですが、筆者が驚いたのは白ムーチーでした。沖縄の重箱は料理の重のほかにムーチーだけの重があり、ここには白い餅、ムーチーがびっしり詰め込まれています。しかもこの餅も本土のそれとは少し違っていて、餅米ではなくコメ粉で作るものなので、あまり甘さはありません。これに、おじぃやおばぁは豚の三枚肉を挟んで食べるのです。

ムーチーのカロリーはわかりませんが、1個でだいたいご飯1膳分などということがあるので、三枚肉を挟めばご飯2膳分くらいのボリュームがあるのではないかと……。これを、おしゃべりしながらひょいひょい食べちゃうのだからすごい。沖縄の高齢者のみなさんは本当に元気ですし、きっとその横でご先祖様も同じように食べているのではないかなと思います。
 
今回は、「沖縄のお盆」についてご紹介しました。沖縄のお盆には細やかな決まりごとがたくさんありますが、全体を通して感じるのは、ご先祖様がとても身近だということ。沖縄の人たちが仏壇の前でも、お墓の前でも、そこにいるかのように普通にご先祖様とお話ししている姿こそが、沖縄の伝統であり文化そのものなのかもしれません。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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