夫が正しいと信じていたわけではないが
それを機に、アケミさんは夫との関係を考えるようになった。夫がいつも正しいと思っているわけではないが、夫に自分の意見をぶつけると、そのたびにかえって傷つくからなにも言わなくなったのだと改めて感じたという。「私がパートで仕事をしていることも夫はよく思ってはいないんです。パートなんて、遊びみたいなもんだろと言ったことがある。パートだって仕事は仕事。仲間はみんなまじめに一生懸命働いています。もちろん私も。その夫の言い草には腹が立って『どういう立場であれ、仕事にはみんなきちんと取り組んでる』と言ったんです。夫は鼻で笑って、『オレと同じ額を稼いでから言ってほしいね。こっちがどれだけ苦労しているのかきみにはわからないのかな』って。夫に何か言うと二度傷つく。だから言わない」
それでも年に1度や2度は言い返したくなることもある。夫の親戚関係へのお中元やお歳暮、義父母へのプレゼントなどもすべてアケミさんの仕事だが、夫からはお礼ひとつ言われたことがない。それどころか昨年、義母の誕生日に送ったスカーフは夫の勤務先に送り返されてきた。
「義母は『センスないわあ、こんなの誰もしないでしょ』と言ったそうです。夫がそっくりそれを私に伝えてくる。今までそういう好みの強いものは送ったことがないんですが、夫がたまにはスカーフでもというから贈ったのに。どういう柄が好きかもわからないと抵抗しましたが、何でもいいよと言われたから……。デパートの店員さんとも相談して、誰にでも似合いそうなものを贈ったつもりだったんですが。だからあなたがスカーフにしろって言ったんでしょうと言ったら、『きみがそこまでセンスのない人だと思っていなかったから』って。これもまた傷つきました。ごめんなさいと言うしかなかった」
娘の生意気な発言が図星すぎた
夫に逆らってはいけないと我慢してきた母を見て、こうはなるまいと思っていたのに、たまに自分の意見をぶつけては逆ギレされて謝るしかなくなる。そんな自分にアケミさんは腹を立ててもいた。「長女が最近、言ったんですよ。『お母さんも、おばあちゃんと同じだよ。自分の人生を生きてない』と。生意気なと怒りかけたけど、図星なんですよね。結局、養われているから言い返せないと思い込んでいる、家庭での分業だと思えばいいのに夫がそう思っていないのがわかるから言い返せない。夫が不機嫌になるとめんどうだから、つい謝ってことをすませてしまう。これじゃいけないとわかってはいるんですが」
これからは変わっていこうと思っていると、彼女は娘に約束した。もっと自分の権利を主張する、むやみに謝らない。そのあたりから始めていける、そうしなければ自分が壊れていくと思っているそうだ。
「ひとりの女性として人間として、娘に愛想をつかされたくない。そのくらいなら夫と別れたほうがましですから」
アケミさんの“闘い”は、これからだ。