ついに自宅で?
やっと連絡がついたのは、アヤコさんが出産した直後だった。「どうしても仕事上、接待しなければならない席があって。ごめんと謝り倒したあげく、赤ちゃんを見て号泣。アヤコ、ありがとうありがとうって。演技ではないんですよね。そのときそう思ったのは本当だったと思う。でもあとから、私が出産で苦しんでいるときに夫は女と会っていたらしいと分かりました。接待じゃなかったのねと言ったら、『あれも接待のようなもの。仕事上、必要だった』って。問い詰めても認めないし、夫の浮気にいちいちつきあっているのもめんどうになって聞かなくなりました」
年子でもう1人産み、義母の助けを借りながら共働きを続けた。さすがの夫もなるべく早く帰宅しようと思ったようだ。帰宅すると、意外とてきぱきと家事や育児をこなしている。
「こうやってふたりで子どもを育てていくんだなとしみじみ思ったこともあります」
それでも「遊びたい気持ち」はなくならなかった。昨年の夏休みのこと、8歳と7歳の子どもたちを連れて、アヤコさんは実家に帰省した。
「その前から少し夫が怪しかったんですよ。いつものように見て見ぬふりをしていれば、また落ち着くかなと思っていたけど、妻のカンでしょうか、今回は何かが違うような気がしていました」
いつもなら女性と仲良くなると饒舌(じょうぜつ)になり、アヤコさんの機嫌をとるためか急に花などを買ってくる夫が、今回は妙にムスッとしていることが多くなった。どうしたの、体調がすぐれないのと聞くと、「ううん」と笑顔を見せるのだが、ふとした瞬間に考え込んでいるような表情になる。
「本気で恋をしているのかもと思いました。よく考えれば私は、夫と別れる気などない。ここはなんとしても食い止めなければと妙な闘争心がわきました」
そうっと、自宅の玄関の鍵を回して……
実家に子どもを預けて、アヤコさんは2時間半の道のりを自宅へ戻った。そうっと玄関の鍵を回すと玄関には女性のパンプスがあった。「さて、どうしようと思い、すぐに義母に連絡しました。義母には以前から夫のことを話していたので、『わかった、すぐ行く』と言ってくれて。本当にすぐに来てくれました。なんと義父まで一緒だったのでびっくり。3人でそうっとリビングに入ってみると、誰もいない。すると私たち夫婦の寝室から声が聞こえた。血の気が引きましたが、思い切ってドアを開けたんです。その真っ最中でした」
悲鳴を上げたのは義母だった。夫と若い女性は顔を上げたが、次の瞬間、夫は女性に布団をかぶせた。義父が夫に近づいて、いきなり殴りつけた。
「なかなかの修羅場でした。私は義父母をリビングに促し、夫に『その子、早く帰してあげなさいよ』と言ったんです。若い女性はすぐに自宅から出ていきました。夫はTシャツ短パンという姿で、キッチンにはワインの空瓶とデリバリーのピザの痕跡があった。義父母はわなわなしながら怒っていたけど、私としてはもう目的は果たした気にもなっていた。だから義父母にはご迷惑をかけてすみません、あとはこちらで何とかしますからと引き取ってもらいました。義父は『おまえも父親だろ、もうちょっと考えろ』と叫びながら帰っていきました」
プライドも体面も失った夫は、一言も発さずリビングに座っていた。しばらくたってから、夫は「今日は帰ってこないはずだろ」とポツリと言った。
「そこ?言うべきことはそれ?と私はあきれましたね。身ひとつで出ていく?二度と子どもにも会わせないし、今後の給料の半分くらい養育費でもらうけどと言ったら、夫は完全に涙目。かっこ悪いよね、どうして家に引っ張り込んだりするのよと言ったら、夫は『彼女が家を見たいっていうから』と。あなただけの家じゃないのよ、なに考えてるのよと夫に殴りかかったら、夫はまったく抵抗しなかった。ボコボコに殴ってしまいました」
自分の手が痛くて我に返ると、夫の顔がふくれあがってゆがんでいた。あわてて義父に車で来てもらい、病院へと連れていった。
「夫も夫だけど私も私。そう思いましたね」
治療後、夫はアヤコさんに深々と頭を下げた。許してほしい、自分が間違っていた、オレにはアヤコしかいないんだと。義父が証人になり、もうしないと一筆書いてももらった。
「ま、あんまり信用していませんけどね。ただあれから1年、夫は一応、おとなしくしていますが、またそろそろやらかしても不思議はない。義父母は今でも怒っていて、夫とは口をきこうともしないくらい。あの義父母がいたから、私は深刻になりすぎずにすんだと思っています」
“ちゃらい夫”ももう40代半ば。そろそろ落ち着くのか、もう一波乱あるのか、いずれにしても義父母がいるから乗り越えられると思うと、アヤコさんは笑顔を見せた。義父母に何かあったときこそ、この夫婦のありようが決定するのかもしれない。