人材育成・社員教育

「ずるい」「簡単」「1分」……焼き直しだらけに見えるビジネス書の選び方“簡単入門”

書店に並ぶビジネス書の新刊。同じネタの焼き直しのように見えるが、誰が何のために読んでいるのだろうと思ったことはないだろうか。ビジネス書の制作側の事情や狙いなども踏まえ、ビジネスパーソンによるビジネス書の効果的な活用法について、人材コンサルタントが解説する。

小松 俊明

執筆者:小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職ガイド

書店で本を選ぶビジネスパーソン

ビジネス書初心者のためのビジネス書の選び方”簡単入門“

インターネットで書籍を購入するのが主流になって久しいが、書店に出向き、自分の目で書籍を手に取って、まえがきやあとがき、目次や第1章第1節くらいは読んでみて、1200~1800円くらいのビジネス書に投資するかどうか決めている購買層もまだまだいるだろう。

ビジネス書を読んで育った世代はこのような書籍の購入スタイルや、ビジネス書の活用法に慣れているだろうが、インターネット時代に育った若手社会人、そしてベテラン世代でもビジネス書をあまり仕事に役立ててこなかった人は、選び方や読み方が分からない人も多いはずだ。そこで本稿では、ビジネス書の選別方法“入門編”を紹介する。
 

タイトルに入ったキーワードで、自分の求める情報を簡単に選別

はじめに、そもそもビジネス書にはどんなジャンルがあるのか簡単に紹介しよう。書店でのビジネス書の棚構成を見ると、主に4つのジャンルがあることが分かる。ビジネス、経済、経営、ビジネス資格である。そしてその各ジャンルがさらに細かく分類されている。例えば、就職・転職に関するもの、タイムマネジメントやビジネスコミュニケーションなどの仕事術に関するもの、特定の企業や経営者のストーリー、さまざまな経済分析や実務書などである。

専門書もあるが、書店の棚構成で大きな割合を占めているのは、よく売れる入門書であり、それらの書籍には一定の特徴が見られる。それはビジネス書のタイトルを見ればよく分かる。

例えば、ビジネス書のタイトルに頻出のキーワードがあることはご存じだろうか。アマゾンで検索してみれば、同様のキーワードをタイトルに入れた書籍が大量にあることに気づく。

「サルでもわかる」とタイトルに入れた本はたくさんあって、猿には大変失礼な話ではあるが、このフレーズをビジネス書のタイトルに使うことに人気があるのは、恐らく入門書であることを強調できるからである。「入門」「簡単」「1分」「ゼロから」などは同じ狙いがあるキーワードだ。基本情報を知りたい読者は、こうしたタイトルのビジネス書を選べば良く、逆にもう少しレベルの高い情報を求める読者は、これらのタイトルの書籍はターゲットから外せばよい。
 

「ずるい」系ビジネス書の読み方

ビジネス書の読者のニーズで高いのは特定の分野に関する基本情報を得ることであるが、もう1つの高いニーズは特別な情報、ユニークな情報、いわゆる「ここだけの情報」を得ることである。正攻法ではうまくいかないので、何か特別な方法はないかということだ。加えてニーズが高いのは、楽に実現する方法かもしれない。その象徴的な言葉として「ずるい」という言葉が、ビジネス書のタイトルでは繰り返し使用されている。

ビジネス書をあまり好まない人の中には、こうしたタイトルに対してあまりいい印象を持たない人もいるだろうが、いわゆるビジネススキルのノウハウ本にこの種のタイトルのものが多く、著者は多種多様である。ライターを本業にする人から、ビジネスコンサルタント、スポーツ選手、政治家、テレビプロデューサー、そしてタレントのような著名人まで、自分が生きてきた世界の経験則に応じて、さまざまなノウハウや発想を紹介している。

この分野は専門書というよりも、一種の教養本といってもよいかもしれず、はっきりとした読書の目標や目的が定まっていなくても、読み物として軽く読み流す読み方もある。
 

ビジネス書の売れ行きはタイトル次第

このように、ビジネス書のつくりは、表紙のデザインや装丁、タイトル・副題の決め方に知恵が絞られていることが多い。

ビジネス書のターゲットはビジネスパーソンである。トピックによって世代を問わないもの、若手向け、ベテラン向け、特定の専門分野に特化した内容などもある。もちろん学生でも、社会人を意識した就活生や一部の意識高い系の学生、経営やビジネス専攻の学生などがビジネス書に手を伸ばすこともあるだろう。

このターゲット層に共通しているのは、日々比較的忙しいということだ。それがゆえに、ビジネス書の購買行動においても、あまり時間をかけず、比較的早い判断をする。タイトルなどが特徴的につくられる理由の1つだろう。ちなみに多くの場合、タイトルや副題、装丁を決めるのは出版元の担当編集者であり、本の著者ではないことが多い。本を売るために、出版元の書店営業担当者と編集者が中心になって決め、著者には意見を聞くか、事後報告というケースもある。本が売れない時代であるがゆえに、出版ビジネスも大変である。
 

過去のビジネス書を掘り返す面白さも

またビジネス書は、その時代の特徴をよく反映していることも最後に触れておく。例えば経済成長が著しいバブル時代なら、年収を上げる、キャリアップ、スキルアップに関する書籍がよく売れていた。失われた20年、もしくは30年といわれた時代には、投資、節約、ワークライフバランスに関するビジネス書に注目が集まった。

このように、ビジネス書はその時代の空気を読み、読者の関心を引くテーマで量産されて消費されていく。このような見方で、一定の時代に出版されたビジネス書を一覧で見てみるのも、時代をつかむ意味で面白いだろう。

そしてこのような背景もあって、ビジネス書にはロングセラーがあまり多くない。過去のビジネス書を読み返すことも、小説や文芸書と比べれば少ない。

しかし、常に最新のビジネス書を手に取れば良いというわけでもない。むしろビジネスにおいて大切なことは、何十年たってもあまり変わらないところがあり、過去のビジネス書が提供する情報がすべて使えなくなっているわけもない。そうした意味で、発行年の古いビジネス書に見向きもしないのは、実にもったいないことともいえる。

時代によって流行は違うものだが、流行は回帰することも多い。宝探しをする視点で過去のビジネス書を掘り起こしてみるのも新しい発見があるかもしれず、面白い。ほかの人があまりしないからこそ、本棚に眠っている古いビジネス書を読み返してみることで、思いがけない発見もあるだろう。


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