「子どもがかわいそう」は呪いの言葉
「子どもがかわいそうって呪いの言葉ですよね」そう言うのはタカコさん(43歳)だ。彼女もまたフルタイムで働いている。10歳の息子の母親でもあるが、出張も自ら進んで行くほどだ。
「うちは夫がここ3年ほど闘病しているんです。体調のいいときは仕事ができますが、休んだりすることも多い。そのために給料は減額されていますが、辞めさせられないだけマシだと割り切っています。代わりに私ががんばらないと。もともと仕事は好きなので苦ではないけど、それをとやかく言われるのがうっとうしいですね」
タカコさんの両親が同居しているため、夫の体調も子どもの世話も両親に負担をかけている面もある。だが両親は「むしろ暇にならなくていい」と喜び、娘の夫についても温かく見守ってくれているそう。
「ただ、近所の人も私の友人知人も、夫の闘病については詳細を知りません。だから夫が働いていないと噂されたこともあるし、私が出張すると『両親が育児放棄してるんじゃないか』と言われたこともある。キャリーバッグを引っ張って外へ出ると、近所の人が『あら、旅行?』と。いえ、出張ですと言うと『まあ、坊やがかわいそうねえ』とよく言われました。今も言われていそうです」
悪妻といわれるより傷つく
子どもがかわいそうと言われれば、母親は傷つく。自分では職業人としても母親としても、めいっぱいがんばっているつもりなのに、客観的にみれば「子どもをきちんと育てていない母親」と見られてしまう。「悪妻だと言われるより、育児放棄している母親と言われるほうがつらいですよ。世の中の母親たちは、『ダメな母』『周りに迷惑をかけている母』と言われることにビクビクしているんじゃないかと思う。私も平気な顔をしてはいますが、内心、やっぱり子どもがかわいそうと言われたくないとビビってますから」
人にはいろいろな事情がある。家庭で抱えている問題もさまざまだ。だからこそ安易に「子どもがかわいそう」は言ってはならないのではないか。
「困ったことがあったら言って、手助けできるよと声をかけてくれた職場の先輩がいるんです。その一言を聞いたときは思わず涙ぐんでしまいました。強気に見える私がウッと詰まったので、先輩も驚いたみたい。それ以来、職場ではあれこれ言われなくなりました。先輩が周りに協力を求めてくれたようです。ありがたかった」
味方がいれば状況も変わっていく。ひとりでがんばりすぎないことも必要なのかもしれない。