脳科学・脳の健康

Q. 「願えば夢は叶う」と言いますが、脳科学的に本当でしょうか?

【脳科学者が解説】「願えば叶う」「強く願えば夢を引き寄せられる」「思考は現実になる」といった言葉は、非科学的な感じがするかもしれませんが、あながち無意味なことともいえません。脳科学的な見地から、これらの思考に意味があるのかを解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

Q. 「願えば叶う」というのは、科学的にも本当でしょうか?

思いが行動を変える…「夢が叶う」メカニズムを脳科学的に解説

「夢が叶う」メカニズム

誰でも夢を叶えたいと思うものですが、願うだけでは何でも思い通りにはならないものです。でも、願うことや具体的にイメージすることは、無意味なことではなさそうです。わかりやすく解説します。

Q. 「友人が『願えば夢が叶う』と信じて、夢を具体的に書き出したり、ノートを作ったりしているのですが、非科学的なことを無駄に頑張っているように感じてしまいます。科学的にも、そういった効果は実際にあるのでしょうか?」
 

A. 夢を叶えるのは大変ですが、願うことは脳科学的にも無駄とはいえません。

「願えば叶う」といわれますが、現実には、夢を叶えるのはなかなか難しいものです。でも、夢を描くことは決して無駄ではありません。

私自身は、小学生のときの作文で「将来は宇宙飛行士になりたい」と書いた覚えがありますが、実際に宇宙飛行士にはなれていません。でも、私はいま、別の好きなことで仕事ができています。元々は「宇宙ってどうなっているのか見てみたい」という興味から宇宙飛行士になる夢を描いたはずなのですが、いろいろなことを学んだり考えたりしているうちに、自分の疑問を自分の手で解き明かす「科学研究」の面白さを知ることができ、それが今の仕事につながっているように感じます。つまり、当初とは違う形だったとしても、自分の将来のために夢を描き続けることは大切なことなのです。

「夢を描くことで、自ずと行動が生まれ、夢へと近づく」というのは、非科学的な精神論だと思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。脳科学的にも十分あり得ることです。

私たちの脳には、自分の意思と関係なく無意識のうちに生じるタイプの記憶の一つとして、「プライミング」という仕組みが備わっています。これは、先に触れた情報や体験した出来事が無意識のうちに頭に残り、後に続いて起こる事柄に影響を与えるという仕組みです。その効果がよくわかるのが、いわゆる「ひっかけ遊び」です。相手から「ピザ、と10回言ってください。」と指示されたら、あなたはその通り、「ピザ、ピザ、ピザ……」と復唱します。その直後に、相手が腕の関節を指さしながら「じゃあ、ここは何ですか?」とたずねたら、あなたがついつい「ヒザ(膝)」と答えてしまう、という遊びです。もちろん、冷静に考えれば「ヒ“ジ”(肘)」であることは誰でもわかるのですが、ピザという言葉が無意識のうちに頭の中に刻み込まれた状態でたずねられると、ピ“ザ”と似た「ヒ“ザ”」と口走ってしまうというカラクリです。

ちょっと専門的になりますが、こうした効果をもたらすのに先行する刺激のことを「プライマー」、影響される後続の事象を「ターゲット」と呼びます。つまり、プライミングとは「プライマーによって、ターゲットの処理が促進または抑制される効果」とも定義されます。

プライミングは、「思い込み」や「勘違い」を発生させることで、ときには失敗の元になることもあります。たとえば、失くした物がなかなか見つからない、自分の書いた文章の間違いを見つけにくい、自動ドアだと思ってドアの前に立っていたら実は手動の引き戸だったといったことが起きてしまうのは、すべてプライミングが仇になった結果です。

しかし、当然のことながら、本来のプライミングは、失敗するために用意された仕組みではありません。体験したことを常に無意識のうちに覚え、次に起こることの予測をたてることで、素早い判断や状況に合わせた的確な選択を行うのに役立つものです。先に考えていたこと(プライマー)が、無意識のうちに、次の行動(ターゲット)に影響するのも、プライミングが関わっています。

気づかないうちにプライミングが私たちの行動を左右しうることを示す興味深い研究結果が知られています。ある実験の参加者を2つのグループに分け、一方には「高齢者」を連想させる単語のセットを提示し、もう一方には無作為に選ばれた単語のセットを提示し、ともにそれらの単語を使って文章を作る作業に取り組んでもらいました。そして終了後、参加者たちの歩行速度を測ったところ、「高齢者」を連想させる単語を提示された参加者の歩行速度は、そうでない参加者よりも遅くなっていたというのです。「高齢者」を連想する単語に触れたことがプライマーとなり、そのターゲットとして歩く速度に反映されたと推定できます。

これと同じように、みなさんが何か夢や目標をもった場合、それがプライマーとなって、とくに意識しなくても、自然とその後の行動が変わるのです。

人生には、多くの「選択」を迫られる岐路があります。学校の部活、受験する学校、就職、結婚など。そんなとき、満足する選択ができるためには、当たり前のことですが、そもそもどうしたいのか自分なりの考えを持っていることが必要です。ちゃんと明確な希望が持てていれば、それがプライマーとなって、自ずと「進むべき方向」に導かれることでしょう。

「願えば夢は叶う」という言葉は、最初に描いた夢が最終的に必ず実現されるという意味ではなく、「思いが自然と行動を変えて、望む方向へと導いてくれる」という意味です。そのために「プライミング」という脳のしくみが役立っているのです。その効用を発揮するためのプライマーとして、「夢を描く」ことが大切なのです。

■関連記事
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます