Q. 見直したはずなのに、書き間違いに気づけないのはなぜ?
自分の書いた文章を読み返すとき、なぜ間違いが見つかりにくいのか
他の人が書いた文の間違いには簡単に気づけるのに、自分で書いた文章の間違いにはなかなか気づきにくいもの。これには脳の仕組みが関係しています。
Q. 「人の文章の間違いはすぐわかりますが、自分の書いたメールの文章では、うっかり間違いをよくしてしまいます。学生時代はテスト中にちゃんと見直しているのに、書き間違いに気づけないこともありました。これはなぜでしょうか?」
A. 無意識な記憶のしくみ「プライミング」のせいです
これは脳に備わっている無意識な記憶のしくみ「プライミング」のしわざです。プライミングとは、先に触れた情報や体験した出来事が無意識のうちに脳に記憶されることで、その後に続いて起こる事柄が影響を受けることです。少し専門的になりますが、先行する刺激のことを「プライマー」、影響される後続の事象を「ターゲット」と呼びます。つまり、プライミングとは「プライマーによって、ターゲットの処理が促進または抑制される効果」とも定義されます。
これは本来、「同じ経験を再びしたときに、より素早く対応できるように用意しておく」ための脳の仕組みと考えられています。例えば、本を読むときに、事前に何となくあらすじを知っていると、何も知らないで読むときよりも早く読めたりします。これもプライミングの効果です。
しかし、プライミングが悪く働いてしまうこともあります。テストやメールでの間違いに、自分では気づきにくくなってしまうのです。ご質問のようなことは、実は筆者自身も経験しています。筆者の本職は大学の教員ですので、学生たちの習熟度を評価するために筆記試験を行います。時間をかけて試験問題を作り、間違いがあるといけないと思って何度も見直してから本番に臨みます。しかし、いざ本番になって試験問題を配布して学生に解いてもらうと、その試験時間中に必ずと言っていいほど学生が手を挙げて疑義が出ます。問題文中の言葉のミスや選択肢番号の不備など、「あんなに何度も見直したのにどうして気づかなかったんだろう」と情けない思いをします。
自分で書いた問題文ですから、そこに書かれた内容を筆者は予め知っています。つまり無意識のうちにプライミングができています。その証拠に、自分で書いたものを読み返すときには、何も知らない他の人よりも、はるかに早く読むことができます。
ただし、プライミングがあると「ここにはこのようなことが書かれているはず」と思い込みながら目を通すので、無意識のうちについつい文字を読み飛ばしているのです。読み飛ばしていては、何度目を通しても間違いに気づかないわけです。
面白いことに、同じことは学生の側にも発生するようです。たとえば、試験開始時と答案回収の直前に「学籍番号のマークミスがないか、よく確認してください」と注意を与えるのですが、ほぼ毎回必ず誰かがマークミスをしています。本当は0点なのですが、あまりにもかわいそうなので当人を呼び出し、「平気だろうと思い込んで見直すとミスは見つからないよ。今後は良く注意するように。もし国家試験とかだと本当に不合格になるからね」とアドバイスして、採点・評価してあげています。
こうしたミスを減らすには、プライミングによって発生した思い込みが邪魔しているということを理解し、注意を払う必要があります。具体的には、自分で書いた文章なので内容を知っていたとしても、できるだけ「そこに何が書かれているかを知らない」つもりになって、一つ一つの文字をできるだけ丁寧に追うようにすること。つまり、「プライミング効果が生じないように自分でコントロール」すれば、間違いに気づきやすくなります。
是非トライしてみてください。