いつまで勤務すれば、老後資金は用意できるでしょうか
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、52歳の会社員の女性の方。職場の人間関係でかなりのストレスがあり、早期の退職を希望しています。現状それが可能か、時期的にいつの退職なら老後資金の面で不安がないかなど、ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。いつまで勤務すれば、老後資金は足りる?
Mewmewさん(仮名)
女性/会社員/52歳
東京都/持ち家・一戸建て
■家族構成
同居人(未入籍)64歳
■相談内容
職場の人間関係のストレスに耐えられず、できるだけ早く退職を考えています。今の状況で、それは可能でしょうか。仕事は自動車関係で技術系の仕事をしていましたが、数年前に総務的な部署に異動になり、さらに人間関係が複雑になりストレスとなっています。今は週3回のテレワークを認めてもらえていますが、いつまでテレワークできるかわかりません。同居人とは未入籍ですが15年以上ともに生活しており、私が退職したら入籍することも考えています(苗字が変わっても問題なくなるため)。同居人は、私が早期退職したら仕事を辞めるかもしれません。
現在、持ち家で固定資産税は年間2万5000円、ローン返済済みです。光熱費は、猫がいるため夏場はエアコン24時間稼働+最近の電気代UPのため高額。車は、普通車と軽の2台保有、仕事を辞めたら軽2台もしくは軽1台にするつもりです。同居人、猫7匹と旅行に行くこともなく質素な生活をしています。私が財産を残しても託す人がいないため、老後が普通に暮らせるだけあればよいと思っています。
ストレスをためながら日々暮らすより、猫たちと穏やかな暮らしを望んでいます。仕事をすることは苦でないため、必要であれば短時間のパートをすることも可能。
お金がないから耐えて仕事をしなければいけないと考え、暗い気持ちで毎日過ごすよりは、専門家の方にアドバイスをいただきたく投稿いたしました。よろしくお願いします。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)家計管理について
データにある生活費、支出は2人分。同居人の通帳、クレジットカードは相談者が管理している。
(2)ボーナスの使い道
固定資産税2万5000円、車の維持費13万円、交際費(お中元・お歳暮、記念日等)6万円、ふるさと納税10万円、残り貯蓄。
(3)自宅について
築45年。12年前に購入した際、かなりリフォームをしたが、数年以内に外装塗装とテラスの屋根張り替えで100万円程度かかる見込み。
(4)加入保険の保障内容
・相談者/生命保険(死亡200万円、60歳払込終了、医療特約付き)=毎月の保険料6700円
・相談者/養老保険(54歳で200万円、60歳で300万円の満期金)=毎月の保険料1万円
・同居人/医療保険(終身、死亡なし)=毎月の保険料4000円
(5)公的年金の受給額
相談者15万円、同居人12万円。
(6)退職金制度について
早期退職した場合の退職金は400万~500万円(55歳の場合、定年退職の場合は1500万円)。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 1年後の退職なら老後資金は十分
アドバイス2 今すぐ退職でも、アルバイトや家計の見直しで対処可能
アドバイス3 最優先は健康面、できる限り早期の退職を
アドバイス1 1年後の退職なら老後資金は十分
今の状況で勤務先を早期退職することは可能でしょうか、というご相談ですが、先に結論を申し上げます。私は、条件付きでありますが、今すぐの退職も可能だと考えます。では、手始めに1年後に退職するケースで試算をしてみます。その場合、同時に同居人の方も退職するとします。
現在の家計収支ですが、データでは毎月約17万9000円、ボーナスは128万5000円の黒字(ふるさと納税はコストにせず)となりますから、それらがすべて貯蓄に回れば、年間約343万円。この他に退職金を仮に350万円とし、また、養老保険の満期金500万円を前倒しで加算すると、退職時に1193万円が貯蓄に上乗せされますから、その時点で金融資産は総額4373万円となります(投資商品の評価額は今と変わらないとします)。
一方、支出ですが、退職した後も今と生活が変わらないとすると、生活費は年間310万円ほど。これに、Mewmewさんには社会保険料が新たにコストとして発生します。
まず、国民健康保険料ですが、地域によって保険料が異なり、また低所得者への減額措置が利用できるケースもありますので、一概には言えませんが、ここでは介護保険料と合わせて年間10万円とします(同居人の方の分は、年金から天引きされていると考え、ここでは考慮しません)。
合わせて、国民年金保険料を60歳になるまで支払います。金額は年々アップする傾向にありますが、平均で年間20万円とすると、65歳になるまでの12年間で生活費としてトータル3980万円が必要ということになります。
一方、この間に同居人の方には年金収入があります。これが月額12万円ですから、手取りで10万円ほど。したがって、Mewmewさんが65歳になるまでの12年間では、計1440万円受給します。
結果、貯蓄から取り崩す額は2540万円。これを先の金融資産の総額から差し引くと、手元に残る金額は1833万円。ただし、実際は計上している保険料の月2万円が60歳以降なくなりますので、その分を上乗せすると、1954万円。これが65歳の時点の金融資産=老後資金となります。
65歳以降は、年金が2人分となり、その額は手取りで月額22万~23万円でしょうか。これで生活費は年間で20万円程度の赤字。これが30年間、Mewmewさんが95歳になるまで続いたとして600万円。他に、お2人の老後の予備費(医療費、介護費用、車の買い替え費用、リフォーム費用)として1000万円を確保しても、350万円ほどが手元に残る計算になります。長生きリスクを考慮しても、老後資金は十分確保できると考えていいでしょう。
アドバイス2 今すぐ退職でも、アルバイトや家計の見直しで対処可能
では、退職時期をもっと早めて「今すぐ」としたらどうでしょうか。この場合、先の1年後の試算結果より、単純計算で、世帯収入の1年分となる654万円減ります。合わせて、社会保険料の負担が1年分(同居人の分も加えて2人分)と退職金が減額(ここでは50万円減とします)となりますので、老後資金(65歳時点の金融資産)は1210万円となります。
老後の生活費も同様に、年間20万円の赤字、予備費として別途1000万円を確保という設定であれば、計算上はMewmewさんが76歳になる前に、老後資金は底をつきます。
その結果だけをみれば老後資金は不足となりますが、この試算では、車両費がずっと計上されていますので、たとえば75歳で車を手放せば、年間で25万円が浮きます。結果、75歳以降は、年金収入だけで生活費はまかなえることになります。不定期支出は、別途確保している1000万円から捻出すればいいので、計算上は「足りる」ということになります。
アドバイス3 最優先は健康面、できる限り早期の退職を
それでも、老後資金がそれだけでは心許ない、と感じるかもしれません。であれば、ご相談にも書かれてありましたが、退職後、Mewmewさんでも同居人の方でもいいので、働く。パート、アルバイトで構いません。健康面に支障がない程度に、仮に月5万円の収入を5年間続ければ、300万円老後資金が増えます。先の試算は、早期退職後にフルリタイアを想定しています。逆に言えば、途中でまた働く、という選択肢を残しているということです。
また、生活費を徐々に見直していくことでも、老後資金の不足分は改善します。たとえば、Mewmewさんの死亡保障は必要かどうか。現在加入している生命保険を解約すれば、60歳まで払うはずだった60万円ほどの保険料が節約できます。それが終身保険であれば解約返戻金を受け取れますし、払済保険にすることで、今まで支払った分の保障を残すこともできます。
ともあれ、今、Mewmewさんが最優先で考えるべきは健康面です。つまりは、できるだけ早く、今の職場を退職することが重要となります。ストレスがなく、体調を崩さなければ、退職後も資金面での調整や必要な加算が可能となるはず。確かに今の職場に今後2年、3年と勤務すれば、老後資金にはかなり余裕が生まれます。しかし、それよりも可能な限り早期に退職する方が、結果的に豊かな老後が過ごせると、私は考えます。
相談者「Mewmew」さんから寄せられた感想
とても親身になって詳しくアドバイスいただきありがとうございました。実は、父が早期退職を選択、そして闘病生活を送りながら金銭的に苦しみ、父と同じ道をたどりたくないという気持ちが、私の根本にありました。「辞めたい、人間関係から解放されたい→辞めたら父のようにお金がないことに苦しむのでは→辞められない、父のようになりたくない」このスパイラルが延々と続き、今の精神的な苦痛は、収入の代償と言い聞かせ、鬱々と毎日を過ごしていたなかでの相談でした。アドバイスを読んで重苦しかった心がふぅーっと軽くなりました。あー、いつ辞めても暮らしていけるんだなと。
私の性格だともう少しの期間は、なんだかんだ言いながら勤務するんじゃないかなと思います。
だとしても「絶対に退職まで辞めることができない」状況と「いつでも辞めることができる」という確信を持てている状況は、心もちが全然違います。思い切って相談して本当によかったと思います。
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武