発端は、現場をおさえた証拠写真だった
母がかわいそう
父が不倫しているのを知ったのは、高校生のときだったとユウイチさん(35歳)は言う。「ある日学校から帰ったら、いつもはパートに行っているはずの母が家にいて泣いていたんですよ。どうしたのと聞くと、あわてて何かを隠した。取り上げてみたら、父が女性とホテルに入るところ、女性と肩を寄せ合ってベタベタしているところなどの写真がたくさんあって。浮気調査の結果が来たんでしょうね。母は普段しっかりした人だから、今思えば、あんな写真を子どもに見せるようなことはしないと思うんだけど、母自身が呆然としていたんでしょう」
そうやって彼は父の不倫を知った。ショックというより腹が立ったという。いつも明るくて元気な母の涙を見るのがつらかった。
「母にどうするのと聞いたら、『どうしよう』って。そのとき妹が帰宅したので、話はそのままになった。母はあわてて涙を拭いて夕飯のしたくをしていました」
その日の夜、母は遅く帰ってきた父には、なにも言い出せなかったようだ。すぐにでも写真を突きつけてやればいいのにと、ユウイチさんは歯がゆかった。明け方、ようやく少しまどろんでからリビングに行くと、父はすでに出かけたあとだった。
「母を見ると『言えなかった』とつぶやきました。その日の夜は父が早めに帰ってきて家族4人で食卓を囲んだんですが、妹がバスケットをやっているのでその話で盛り上がっていました。母はおとなしかったけど、僕は聞き役で、父が妹にツッコミを入れてて。普段なら母もノリノリなんですけどね。母が痛々しく見えました」
妹は、明日も朝練だからとさっさと自室にひきあげた。テレビを見ている父に「話がある」とユウイチさんは言った。
「『なに』と言った父にいきなり写真を突きつけました。『どういうことなの、お母さんと僕に説明してくれないかな』と。すると父は逆ギレ、『おまえは子どもに何をさせるんだ』と母に向かって怒鳴ったんですよ。『おかあさんに頼まれたわけじゃない、オレが許せないんだ』と、僕は思わず父をぶん殴ってしまった。母に止められなかったら、もっとボコボコにしていたかもしれない」
妹も駆けつけてきて事態に驚き、固まっていた。おまえは親を殴るのかと父は仁王立ちになっていた。親だとは思わない、ふざけるなと彼は怒鳴った。
「『もういい、やめて』と母が叫んで……。地獄絵図でしたね」
ユウイチさんは淡々と言った。
>経済的に自立していなかった母は……