人間関係

大好きな父のために母のアリバイを…「母というオンナ」の不倫をかばう役割だった高校時代の私(2ページ目)

高校生のころ、友人と繁華街を歩いていると偶然にも見知らぬ男性と歩く母を見かけた。そこから不倫する母と娘の“共依存”のような関係が始まった……。30代になった女性から、当時のことを聞いた。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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私はママのフォローはしない!

チヒロさんが大学生になってからも、母はときおり不倫をしている気配があった。アリバイを頼まれたこともあるが、彼女が難色を示すと、母はあわてて「デートじゃないわよ。最近、パパ、私が飲みに行くのが気に入らないみたいだからよけいな心配させたくないだけ」と釈明した。

「どっちにしても、私はママのフォローはしないから、自分で何でも解決してと突き放しました。冷たい娘だとかなんとかグチグチ言っていましたが、私自身、母と私の関係はおかしいと思っていたんです。これもまた共依存みたいなところがあるんじゃないか、と。男にだらしない母を、家族の非難の目から守ろうとするために私が使われているのはおかしいし、私自身も母が気になって自分の人生を歩めない。こういうことから解き放たれたいと思ったので、母を突き放したんです」

ところが母は思ったよりメンタルが弱かった。母にとって娘がブレーキ役でもあり、道を外れたときに元に戻してくれる役割だったのだ。その娘を精神的に失って、母は恋に溺れた。

「学生時代、私はひとり暮らしをしていたんですが、ある日父から連絡があって『ママがいなくなった』と。捜索願も出しましたが見つからない。携帯にも出ない。何かあったらどうしようと本気で心配しました。翌日、やっと連絡がつきました。母は『駆け落ちしかけたんだけど、やっぱり帰りたい。迎えに来て』って。パパにバレるよと言ったら、もうバレてもいいわと疲れた様子でした」

実家に戻ってみると、母は疲れたように座っていた。父は隣で無言のままだ。しばらくたってから、父がつぶやいた。

「相手は仕事で知り合った若い男だそうだ。職場では噂になっているんだろう。チヒロ、どう思うって言われて。父がそこまで知ってしまって大丈夫かなと思いましたが、ママの恋はママが自分で処理すべきでしょ。お父さんはどうしたいのと聞きました」

父は「わからない」と力なく言った。駆け落ちまがいのことをして帰ってきた母は、実のところ若い男に逃げられたのだ。だから疲れた様子だった。父はそこまでわかっておらず、母が自分のしでかしたことで落ち込んでいると信じていた。

「母のことが大好きだった弟が、親しいいとこにその話をしてしまったんですよ。当時彼は高校生だったから、胸に秘めておけなかったんでしょう。そこから親戚を巻き込んで大騒ぎになっていきました。親戚に詰め寄られて、さすがの母も言葉が出なかったのを見ました」

そのとき、父が母を庇った。人間だから過ちもある。勝手にうちに来て責めるなと。逆ギレに近い怒り方だった。

「お父さん、かっこいいと思ったけど、父も見栄を張ったんでしょう。その後、両親は結局、離婚しました。父が事実の重さに耐えられなかったんだと思う。母のことは愛していたはずなんですが」

チヒロさんは傍観者のように分析してみせた。彼女自身は、「母という女は、自分とは種類の違う女」だと思っていたから、特にショックを受けたわけではなかったようだ。

ただ、離婚してからも両親は近所に住んで、ときどき会っていたようだ。離婚から10年たった今も、基本的にそのスタンスは変わっていない。

「先日も私の誕生日に父が指定してきたレストランに行ったら、母もいて。あの問題は、結局、夫婦の問題なんだとそのとき改めて感じました。子どもである私がどう思うかよりも、当事者の夫婦がそれぞれの気持ちを大事にしていくしかないのではないかと。子どもは犠牲になっていいのかと言われそうだけど、たとえ親が離婚しても、それぞれが子どもを愛しているならそれでいい。しょせん、夫婦にとって子どもは育ったら巣立っていくものなんですよね」

チヒロさんは、今、親と物理的にも精神的にも距離をとりながらつきあっている。彼女自身はまだ結婚する予定はない。ただ、恋愛も結婚も「親からの影響は受けていないと信じたい」そうだ。
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