母は意外と気丈だった
その日は彼女に帰ってもらい、両親とマキコさんは話をした。ふたりだけで話し合えるかと聞いたのだが、両親ともマキコさんにいてほしいと言う。「そこから時間をかけて話し合いました。夫が参加してくれたこともあった。結局、認知は当然するべきだ、将来にわたって子どものことは考えたほうがいいという結論になりました。母は『あなたが会いたいなら会いに行けばいいし』って。冷静に見えたし気丈だなと思ったけど、あとから聞くと母は『あの時点で、完全にお父さんを見切っただけ。この年で離婚するのは面倒だけど、私は何があってもお父さんの面倒はみないから』と断言した。母強しですね」
その話を、夫が半分おもしろがって自分の弟に話したところ、そこから夫の両親に伝わってしまった。
「まあ、うちとしては『恥』とは思っていなかったんです。私と姉なんて、お父さんもやるわね。あんなまじめに生きてきて、老いらくの恋かねえと冗談にしてた。だけど義母から電話がかかってきて、きちんと説明しなさいとすごく怒ってるんですよ。夫が『マキコの家の話だし、オレたちにも、ましてお母さんには何の関係もないから』と言ったら、『関係なくないわよ。うちの家名にも傷がつく』って。うちに家名なんてないだろと夫がツッコんでいましたが」
あまりに義母が怒っているので、夫がなだめに行ったがとてもおさまるような状態ではなかったようだ。
「義母はとにかく、年齢なんて関係ない。不倫して子どもを作るような父親をもつ娘に、わが家の名前を名乗ってほしくないということみたいです。籍を抜け、離婚しろってわめいていたそう。そこまで家の名前に執着していたとは知りませんでした。夫も『怒り方が尋常じゃないんだよ』と困り果てていた」
その後、義母の両親が離婚していること、義母が幼いころに父親に別の女性ができて家を出て行ったことがわかった。夫は「母方の祖父に会ったことがないから、早くに亡くなったのかもしれない」と思っていたそうだ。
「そういう境遇だったから、義母は“不倫”には過敏な反応をするようです。義父は『オレがなだめておくけど、今後、お母さんにそういう情報は入れるな』と。義弟だって知らないからつい言ってしまったんでしょう。なんだか義母の言い分を聞いていると、うちの父が犯罪者みたいに思われていて、私は父にちょっと同情しちゃいましたね。義父の説明で義母の気持ちもわかったけど……」
夫がずっと冷静だったから助かったとマキコさんは言う。それにしても家族には何が起こるかわからない。
「うちだってわからないわねと夫に言ったら、『世の中、妻が浮気するケースも多いらしいよ』とニヤッと笑っていました」
何が起こっても冷静に客観的にいることが大事だが、自分の身に降りかかったらどうするだろうかとマキコさんは、あれからときどき考えているという。