人間関係

「実家に依存してはいない」と言い張る彼の“こどおじ”度…32歳女性が言葉を失った夕食の一皿(2ページ目)

35歳になる彼は実家住まい。高齢の両親の面倒をみるためだというが、実際に実家を訪ねると、ご両親はお元気そうで洗濯から部屋の掃除まで逆に面倒をみてもらっていた。夕食に出た秋刀魚の一皿に、彼女は言葉を失うことに……

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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秋刀魚の身だけがきれいに並べられていた

「『はい、おとうさん』とその秋刀魚はおとうさんの前へ。そして彼と私の前に置かれたのは、骨をはずされた身だけの秋刀魚でした。びっくりしましたよ。焼き魚の身だけ出てくるなんて(笑)」

ナツミさんがキョトンとしていると、母親が笑いながら言った。

「『この子はこうしないと魚を食べないの。せっかくだからナツミさんの分も骨をはずしておいたから』って。私、無言でした。言葉が出なかった。彼を見ると、別に恥ずかしそうにするわけでもなく、『さあ、食べよう食べよう』って」

家族との会話の中で、彼が今も中学生のころと同じように母に洗濯やアイロンかけまでやってもらっていることが判明した。さらに彼の部屋の掃除も母がしているのだという。それがわかったときは、さすがの彼も「いや、たまには自分でやってるじゃないか」と抗議したが、母はそんな息子を微笑みながら見つめているだけだった。

食事後、彼は母親が用意したコーヒーとスイーツをもって2階へと彼女を誘った。

「あなたから聞いていたことと、おかあさんが言っていることはずいぶん違うというと、『おふくろは年だから、妄想と現実の区別がついていないときがあるんだよね』なんて言うんです。いや、あなたよりおかあさんのほうがよほどしっかりしていると思うよと言って、私は彼の部屋を出ました。彼が追ってきて、『どうしたんだよ、何がいけないんだよ』って。私の誤解だったんだと思う、あなたはもう少し自立している人だと思ったとつい言ってしまったんです。すると彼は『自立ってなに? 僕は仕事をしているし、親にお金も渡してる。十分自立していると思うけど』と。そうね、と言うしかなかった。もちろん、結婚はあり得ないなと思いながら」

その後も少しの間付き合ったが、彼と親との距離感にどうしても納得がいかなかったナツミさんは、彼と距離を置き始め、数カ月前に別れを告げた。

「彼はしばらく黙っていましたが、『わかった』と。『結局、きみは親孝行な男が嫌いなんだね』って。そういうことじゃないと思ったけど、なにも言わずに去りました。母親に焼き魚の骨をとってもらう35歳は、やはり私には無理です」

最後は少し笑いながら、彼女は「次を探します」と力強く言った。
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