大学生の就職活動

「工場のライン作業バイト」を続け、複数内定を獲得した女子大生の実話。企業の心を掴んだのはなぜ?

就活で語る「ガクチカ(大学生活で力を入れたこと)」は、ゼミ長やサークルの幹事長などの「リーダー体験」を語らなければいけないと勘違いしている学生は多い。今回は過去に「工場でのアルバイト」のガクチカで内定を獲りまくった女子学生の実話を紹介する。

小寺 良二

執筆者:小寺 良二

ライフキャリアガイド

工場でのライン作業のイメージ

「ガクチカ」は、ゼミ長やサークル幹事長などの「リーダー体験」でなくていい

大学生の就職支援をしていると、時に「えっ? そんな経験してきたの?」と驚かされることがある。しかし実際にはその体験に対する学生本人の自己評価が伴っていない場合が多い。本来は企業からの評価を得るに値する経験なのに「こんな体験、就活の自己アピールでは使えない」と嘆いている。

しかし自分の持っている貴重な体験の価値に気付いたときに、その学生の就職活動は一気に変わる可能性がある。

就活で語る「ガクチカ(大学生活で力を入れたこと)」は、ゼミ長やサークルの幹事長などの「リーダー体験」を語らなければいけないと勘違いしている学生は多いが、そのような経験以外でもアピールできることは大いにある。企業の採用担当者は学生から何が聞きたいのか、本質的に考えてみよう。
 

自分のアルバイトにコンプレックスを抱えていた女子学生

以前、都内の某私立大学の就職ガイダンスで講演をした際、

「アルバイトをやっている学生さんどれくらいいますか?」

と問いかけると、ほとんどの学生が手を挙げる中で1番前に座っていた女子学生が手を挙げずに下を向いていたので、講演後に声をかけた。

「アルバイトやっていないの?」と聞くと「やっています」と言う。「じゃあ、どうしてあのときに手を挙げなかったの?」と聞くと「自分がやってるアルバイトなんて就活で役に立たないので」と言う。ただ、今出している「インターンシップ」のエピソードを書いたエントリーシートが通らなくて困っているらしい。

原因を探るため、そのインターンシップに参加した期間を聞くと「1週間」であることが分かった。自己PRエピソードとしては少々弱い。他のネタを探すため「もし嫌でなければ何のアルバイトをやっているか教えてもらっていい?」と聞くと、彼女は、

「私、工場のライン作業のアルバイトをしているんです」

と教えてくれた。確かに「工場のライン作業のアルバイト」を就活のエピソードにする学生は少ないと筆者も納得した。この何気無いアルバイト体験が、この子の就活を180度変える武器になるとは、このときは予想もしていなかった。

以下は筆者が彼女の武器に気付いてしまうまでの会話の流れだ。

筆者「ちなみに工場でどんな仕事してるの?」

女子学生「ゆで卵の殻を剥いてます」

筆者「え??」

女性学生「コンビニのサンドイッチ用の卵サラダを作るために、工場に毎日数千個の卵が運ばれてきて、それが機械でゆで卵になるので、その殻を剥く仕事です」

筆者「ちなみにそのアルバイト、何カ月くらいやっているの?」

女子学生「3年やってます」

筆者「……!!!!!!」


その後、詳細をいろいろとヒアリングした上で、筆者が彼女に伝えた唯一のアドバイスは、

「騙されたと思って、1回そのアルバイトのエピソードを企業に伝えてごらん。そのときに、仕事内容と続けた期間、あと続けることが出来た理由も一緒に伝えてね」

彼女は半信半疑な表情をしてはいたものの、自分が今まで誰にも話せていなかった工場のライン作業のアルバイトを初めて評価してもらえて、うれしそうな表情をしていた。

講演はその日1回だけだったので、そのときは彼女が実際にそのエピソードを就活で武器にするかどうかまでは分からないが、1人の学生が自分の体験に自信を持てたのであれば良かったと思った。
 

運命の再会! “ゆで卵学生”の驚きの就活結果は……

この話には後日談がある。

実はこの大学には、その翌年も就職ガイダンスの講師として講演する機会を頂いた。

ちょうど1年前の衝撃の記憶を思い出し、同じ大学の先輩の事例として「昨年、こんな学生がいてね」と紹介した。

伝えたかったことは「例え自信がなくても、本当に頑張ったと思う体験があれば勇気を持って伝えていいんだよ」ということ。実際に彼女がゆで卵のエピソードを就活でどれだけ使ったかは分からないが、少しでも同じ大学の後輩たちの励みになればいいと思った。

するとなんと会場で講演会のスタッフをしていた学生が

「私、その先輩知ってます!」

と話しかけてきた。実はその学生は学内の内定者懇談会で、知人の先輩が「ゆで卵の殻を剥くアルバイトを就活で話した」ことを覚えていたのだ。

「今いるか探してきます!」とキャンパスに戻り、なんと本人を連れて戻ってきてくれた。あの1年前に自信なさそうに工場アルバイトを隠していた女子学生は笑顔で自信に満ちた学生に変貌していた

早速気になっていることを聞いてみた。

筆者「結局あのエピソードは使ったの?」

女子学生「使いまくりました!! 笑」

筆者「それで結果はどうだったの?」

女子学生「4社から内定を頂けて、大手ガス会社のグループ会社に決めました!」


うれしそうに話してくれた。筆者も結果はもちろんうれしかったが、1年前に伝えたアドバイスを勇気を出して実行してくれたことが何よりもうれしかった。
 

学生にとって自信のないエピソードでも企業の評価を得る理由

実は筆者自身はこの結果を聞いたとき、そこまで驚きはなかった。彼女があのエピソードを、伝え方を守って伝えてくれれば、ある程度結果が出る可能性があるのは1年前に分かっていたからだ。

企業の採用担当者は学生のエピソードが「何の体験か?」で評価はしない。その体験を聞きながら、学生が持っている能力や仕事に対する姿勢を見抜き、それが自社の仕事や職場環境とマッチすれば評価するのだ。

まず彼女に伝えてほしかったのは工場での「仕事内容」。1日に何百というゆで卵の殻をひたすら剥き続けるという、一般的なイメージとしては地味で単調な仕事だということ。そして次にその「期間」。1つの単調な仕事を3年続けることが出来ているというこの事実だけで、彼女に「忍耐力」と「継続力」があることが分かる。

そして最後に「3年続けることが出来た理由」。実は筆者が当時1番気になっていたのは「なんで3年も続けられたの?」ということだった。

実は最初はその単調過ぎる仕事に、1カ月で辞めようと思ったという。しかしそこで働くスタッフの多くが年配の主婦で、その人たちと仲良くなると職場の居心地も良くなり、仕事もさまざまに協力し合いながら工夫するようになっていき、殻を剥くゆで卵の数も増えていったらしい。

ここまで伝えてもらえれば、彼女が職場の先輩たちとコミュニケーションを取りながら良い関係を築き、仕事の成果に繋げる「関係構築力」や「改善力」があることが分かる。

そしてきっと面接した人事の人たちは同じ確信を得たはずだ。

「ゆで卵の殻を剥く仕事で出来たなら、うちの仕事でも大丈夫だ」

もし今、大変な職場や単調な仕事内容のアルバイトを頑張っている学生がいたら、もしかしたらそれは将来の就活の武器づくりのチャンスかもしれない。前向きに頑張り続けていってほしい。


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