金融資産を持っていない人が34.5%って、ホント?
貯蓄に関するさまざまな調査がありますが、クローズアップされるのは、平均貯蓄額といった数値です(2022年版・みんなの平均貯蓄額は?いくら貯めている?)。しかし、ひとりひとりの家計状況が違うなか平均貯蓄額を見ても、「では、いったいどうしたらいいのか?」という答えはでてきません。次の表は、『家計の金融行動に関する世論調査(2022年)』(金融広報中央委員会)の単身世帯のデータから、年代別に示した平均貯蓄額です。金融資産を保有していない世帯も含めたものと、金融資産を保有している世帯のみを分けて一覧にしています。 20歳代のシングルは、金融資産を保有していない世帯も含めると平均は176万円。金融資産を保有している世帯のみだと307万円。この開きが、お金を貯められている人とそうでない人の差ともいえます。
金融資産を保有していない世帯は、全体で34.5%。20歳代で42.1%、30歳代で32.4%とかなり高い割合が示されています。こんなにも「貯蓄ができていない」世帯がいるのかと、驚くばかりですが、実態は少し違います。
お金を貯めるには生活口座と貯蓄口座を分けておくことが大事
この調査では、金融資産を保有している定義を「預貯金、貯蓄性のある生命保険、債券や株式、投資信託、その他の金融商品の総合計」としています。ただし、預貯金に関しては、日常的な出し入れ・引き落としに備えている部分を除いた「運用のため、または将来に備えて蓄えている部分」のみをカウントしています。つまり、預貯金があっても、それが日常的に使う予定のお金であれば、金融資産には含まれないことになります。前述した、金融資産を保有していない割合は34.5%でしたが、そのうち口座を保有していて、現在残高がある世帯は66.7%で、その金額は320万円です。つまりこの世帯は、まったく貯蓄がない、というわけではありません。20歳代でも105万円は、日常的に使うお金として保有しています。 これは、本当に全額、日常的に使うお金なのか、といえば違うでしょう。給料やバイト代などが振り込まれても普通預金に入れっぱなしで、他の貯蓄口座に預け替えていない。もしくは、口座を分けていても、定期預金や積立貯蓄などしておらず、その他の運用商品にも預け替えていないで、ほったらかしになっているお金という可能性が高いでしょう。
確かに、日常の生活費などは引き出しやすい普通預金口座を利用しますが、それ以外は、別の貯蓄用商品を使うべきです。突発的な支出に備えて、普通預金口座に多くのお金を残している人も少なくありませんが、それではいつまでたっても「お金を貯める」ことにつながりません。
まさに、この調査で、金融資産とは「運用のため、または将来に備えて蓄えている部分」と聞いていることと重なります。「貯蓄がない、お金が貯められない」という人は、将来に備えたお金を取り分けることができていないのです。
この人たちは、本来、貯蓄ができる力がある人たちです。生活口座と貯蓄口座をきちんと分けるだけで、お金を貯める力が身についていくはずです。まずは、今ある預貯金口座から、日頃使うのに必要なお金だけ残し、他は別の貯蓄口座に預け替えることです。そのうえで、毎月の収入から貯蓄口座に強制的にお金が貯まるような積立貯蓄などをし、残ったお金で生活することを実践していくといいでしょう。
「収入-貯蓄=支出」の先取り貯蓄で、貯められる人になれる!
問題なのは、本当の「貯蓄ゼロ」世帯です。同調査の金融資産を保有していない世帯のうち、「口座は保有しているが、現在残高はない」世帯は、全体で26.7%。「口座を保有していない」世帯が6.6%。合計33.3%は貯蓄と呼べるものがない、ということになります。なかには、タンス預金として金融機関に預けていないだけ、という人もいるかもしれませんが、それはレアなケースでしょう。
前述の金融資産を保有していない世帯の割合から試算すると、実際の「貯蓄ゼロ」世帯は、全体で11.5%ということになります。これを年代別でみると、20歳代が12.7%、30歳代が13.9%、40歳代が14.5%、50歳代が15.1%が「貯蓄ゼロ」ということになります。 「口座は保有しているが、現在、残高はない」とする世帯は、「収入=支出」の世帯であるということです。これを「収入-貯蓄=支出」とするだけで、貯蓄ゼロから脱出することができるのです。
もちろん、さまざまな事情があるでしょう。収入もぎりぎり、支出も節約して抑えている、なんとか生活できている、という世帯もあるでしょう。しかし、あればあるだけ使っているとしたら、それは単に「ザル家計」にすぎません。収入のうち、毎月1000円でも5000円でも、貯蓄として先取りし、残ったお金でやりくりする、これが貯蓄ゼロから脱出する、唯一の方法です。
20歳代は、まだ収入も少なく、貯蓄する力が不足しているかもしれませんが、若いうちから、貯蓄グセをつけることが最も大切で、金額の多寡は問題ではありません。1日でも早く、先取りで貯蓄できる、積立貯蓄を実行しましょう。
40歳代、50歳代になっても、貯蓄ゼロというのは、かなり厳しい状況といわざるをえません。この先、多額の退職金が受け取れるという以外、老後を支えるお金がない、ということになります。まだこの先の人生は長いのです。今からでも「お金を貯める」ことを意識することが、何よりも大切です。積立貯蓄の他、ボーナスでの使い過ぎはないのか、日々の無駄な出費はないのかといった、「支出」の見直しをすることで、貯蓄に回すお金をしっかりと確保すべきでしょう。
「口座を保有していない」=貯蓄ゼロ、と必ずしもいえませんが、若年層については、やはり貯蓄ゼロに等しいといっていいでしょう。バイトであっても振込みが基本なので、口座を保有していない、という状況を理解するのは難しいのですが、自立した生活をする、働き方を変えるなど、貯蓄する以前の問題を解決する必要があるのでしょう。
いずれにしても、貯蓄する力は、誰にでもあり、その力を使うための知識を得ることが大切です。今の生活スタイルを変えず、貯蓄行動に移れないのであれば、そのツケは老後に回ってくるのです。
1日でも早く、貯蓄ゼロからの脱出を図ってください。
データ出典:金融広報中央委員会「令和4年(2022年) 家計の金融行動に関する世論調査」[単身世帯調査]からデータを抜粋。図表は筆者作成