夫がいてくれて助かったこともたくさんあるけれど
働かない二度目の夫
「あと1年で定年なんです。その後も65歳まで働くことはできますが、給料は激減するのに業務は今と同じ。人員が減っているからもっと厳しくなるかも。働き続けることに意味があるんだろうかと考えてしまいます」そう言うのはリツコさん(59歳)だ。リツコさんは大学を卒業して、今の会社に入社した。29歳のときに最初の結婚をして、長女をもうけるが、夫のモラハラに耐えられず33歳で離婚。当時3歳だった娘は彼女が引き取り、両親と4人で暮らしていた。
「娘が小学校に入ったところで、3年ほど付き合い、娘も懐いていた5歳年下の彼と結婚したんです。そのときすでに妊娠していました。私ひとりで育てようとも思ったんですが、彼が結婚したい、と。実家の近くに賃貸マンションを借りて新生活となったんです」
ところが結婚した途端、夫は、勤めていた会社が倒産し精神的に不安定になった。自分が働いている限り、なんとかなるからとにかく落ち込まずにゆっくりとやりたいことを探したほうがいいと彼女は言った。
「次女が産まれた後、産休だけで復帰しましたよ。育休なんかとっている場合じゃなかったから。夫は家のことはよくやってくれました。長女の面倒もしっかり見てくれたし、次女のことも私よりずっと把握していた。夫が『専業主夫になろうかな』と言うので、『それでもいいけど、あなたは自己実現したいと思わないの?』と言ったこともあります」
給料の中から夫に生活費と、彼の小遣いを渡すとき、リツコさんはどこか釈然としない思いがあったという。その後、夫はリツコさんの扶養に入り、ときどきアルバイトをする生活になった。子どもたちが大きくなると、幼いころほど時間をとられなくなる。夫はゲームに夢中になっていった。
「夫が40歳になったころ、本当にこのままでいいのかと尋ねたんです。そうしたら『司法試験を受けようと思う』と言い出して。まだこれから娘たちの学費がかかる時期だったから『専門学校に行くお金は出せない、受けるなら独学でやって』と言うと、いじけていましたね。『僕のことなんか大事じゃないんだね』って。夫は精神年齢が5歳くらいなんじゃないかと思うくらい、ときどき幼くなるんです。横暴でもわがままでもないけど、私が何か言うと、ママに見捨てられる幼児のように怯えた目をする」
夫が幼児時代、母親から虐待されていたと知ったのはそのころだ。たまたま夫の妹とゆっくり話す機会があり、彼女がうっかり口をすべらせたのだ。「兄に口止めされている」と義妹は言った。リツコさんはそれで合点がいった。嫌われないよう家事育児を頑張ったが、もうそれほど家の中で頼られないとわかった途端、学校に行くと言って彼女の意識を引きたかったのだろう、と。
「夫がかわいそうになりました」
>この先もこの夫と一緒に過ごしていくのか?