男の実家住まいはダメなのか
ところが彼女は、なぜか彼がひとり暮らしだと思い込んでいたらしい。次は「カズマさんの家で将棋をしませんか」と連絡があった。「僕は実家暮らしなのですが、それでもよければとメッセージを送ると、彼女はびっくりしたようです。『40歳にもなろうという大の大人がどうして実家住まいなのですか』と聞かれました。たまたま家を出るような機会がなかっただけなんです。僕はひとりっ子だから、なんとなくここまで親と一緒にいただけで……」
正直にそう書いて送り、のちには電話でも説明したのだが、それを機に彼女の気持ちは引いてしまったようだ。ノリのいいメッセージが来なくなったので、彼は不安を感じて彼女にメッセージを送った。ぜひまた会いたい、と。すると彼女から、「カズマさんって、いわゆる“こどおじ”ですか」と聞かれた。
「僕は子ども部屋に住んでいるわけでもないしとムッとしたんですが、考えてみたら、初めて個室を与えられた中学生のときから、ずっと同じ部屋に住んでいるんですよ(笑)。家のリフォームをしたときも、僕の部屋に関してはほぼそのまま。あれ、オレって母や彼女が言うように“こどおじ”なのかもしれないと思いました。でも一方で、実家住まいなら“こどおじ”というわけでもないだろう。親に依存しているわけでもないしと考えたんだけど、自立心がないといえばないしとも思って混乱しましたね」
相手がそう考えるなら、彼自身にそれを覆す気力はなかった。親の財産に頼って生活していると思われたとしてもしかたがない環境にいるのは確かなのだから。だからといって、財産目当てに近づかれるのも苦痛だし、さっさとひとり暮らしをすればいいと言われるのもつらい。
「結局、僕は実家に住んで今の生活をしているのがいちばん幸せなのかもしれない。そのときはそう思って、彼女とは別れたんです。でも最近、また婚活しようかなと思っているんです。今度は最初から『“こどおじ”ですけど、いいですか』とでも言ってみますかね」
もともと生活にゆとりのある環境で生きてきたカズマさんにとって、相手の女性が「“こどおじ”の何をいけないと思っているのか」がわからないのだ。だから自分を受け入れてくれない人とはわかりあえないとショックを受けてしまう。
「最近、本当に生きづらいなと思っています。インドア派の僕にとって、この生活を維持しながら結婚相手を見つけることがいかに大変か、身に染みて感じています」
生きづらさも多様だ。経済的に苦境だからというだけではなく、ゆとりがあったとしてもその環境だからこそ生きづらいこともあり得るようだ。