映画

父を亡くし声も失う「不幸の連続」……それでも強く生きるおきくを演じた黒木華の挑戦と苦悩(2ページ目)

阪本順治監督の最新作『せかいのおきく』(2023年4月28日公開)でタイトルロールのおきくを演じている黒木華さんにインタビューしました。

斎藤 香

執筆者:斎藤 香

映画ガイド

手話のない時代、オリジナルの手話に挑戦

せかいのおきく

(C)2023 FANTASIA
 

――撮影で大変なことはありませんでしたか?

黒木
:長屋でのシーンは雨が降っていたり、糞尿が流れていたりとずっと地面がぬかるんでいたので、大変でした。あとモノクロ映画なので、おきくが首を切られて血を流すシーンをどう表現しようかと阪本監督はとても悩まれていて、演者にとっても大変なシーンでした。
 
――その一件がきっかけで、おきくは途中から声を失いますよね。江戸時代に手話がなかったので、伝えたいことを身振り手振りで表現するのは難しかったのではないでしょうか?
 
黒木
:難しかったです。基準となるものがあればいいのですが、ゼロからのスタートだったので、どうやって気持ちを伝えようかと。相手のことをよく見て、振りをつけて……というのを監督と相談しながら、とにかく集中して臨みました。
 

高校時代は演劇がすべてだった!

黒木華

高校時代から演劇に夢中だった黒木さん

――黒木さんのキャリアについてお伺いしたいのですが、高校時代から演劇部で活動されていたんですよね?
 
黒木
:演劇部は私にとって青春でした。高校時代は演劇しかやっていなかったですね。体育会系で、上下関係も厳しく、朝練で坂道ダッシュしたり。朝から夜までずっとお芝居に没頭していました。
 
――演劇部時代の経験のなかで、今に生きていることはありますか?
 
黒木
:演劇部の先生から「見ている人より先に泣くな!」と言われたことは覚えています。つまり自意識過剰になるな、自分が気持ち良くなるなという意味ですね。この言葉は印象深いです。
黒木華

さまざまな体験と多くの出会いがある俳優の仕事が楽しいと語る

――黒木さんにとって、お芝居の醍醐味はなんでしょうか?
 
黒木
:やはり、演技を通して、いろいろなキャラクターになれること、作品ごとにスタッフや共演者と新しい出会いがあることです。私は飽き性なので、毎日同じことをするのは苦手なんです。
 
このお仕事は、いろいろな場所に行きますし、演じる役も違います。関わる人も変わってくるので、飽きることがありません。私にとっては、本当にやりがいのある仕事です。
 

いつかミシェル・ゴンドリー監督とお仕事したい!

――高校時代からずっとお芝居の世界に夢中だったということは、いろいろな映画なども観ているのではないかと思うのですが、好きな作品、俳優などいらっしゃいますか?
 
黒木
:私は高峰秀子さんのファンなので『女が階段を上る時』(1960)は、とても好きな映画です。あと海外ではミシェル・ゴンドリー監督の映画が好きで、特に『エターナル・サンシャイン』(2004)が大好き。いつか監督と一緒にお仕事がしたいです!
    ――最後にこの映画を観た感想と読者に向けてメッセージをお願いします。
 
黒木
:この映画は江戸時代の循環型社会を描いたモノクロ映画なのですが、いくつかのシーンでパッと色づくところがあって、ハッとさせられたり、長屋で暮らしている人々の力強さが伝わってきたりと、いろいろな要素が詰まった青春映画でもあるので、楽しんで観ていただきたいです。
せかいのおきく

(C)2023 FANTASIA

 

黒木華(くろき・はる)さんのプロフィール

1990年、大阪府生まれ。デビュー後、演劇の世界を中心に活動。その後、映画やドラマなど映像の世界に進出。2014年『小さいおうち』で第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。『母と暮せば』(2015)『浅田家!』(2020)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。近作は『ヴィレッジ』(2023年4月21日公開)。
 

『せかいのおきく』(2023年4月28日公開)

せかいのおきく

(C)2023 FANTASIA

江戸時代、糞尿を買い、肥料として農村に持ち帰る下肥買いの仕事をしている矢亮(池松壮亮)はある雨の日、厠(かわや)の前で雨宿りをしていると、中次(寛一郎)と寺子屋で子どもたちに読み書きを教えているおきく(黒木華)と出会う。それをきっかけに3人は交流するように。しかしある日、おきくは父(佐藤浩市)が侍たちと出ていくのを追いかけて、斬りつけられ、声を失ってしまうのです……。

監督・脚本:阪本順治
出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
 
取材&文/斎藤 香
撮影/髙橋明宏
 
ヘアメイク:黒田啓蔵(Iris)
スタイリスト:観世あすか
着付:吉田智江
着物:古澤万千子 帯:田島隆夫(白洲正子プロデュース作品)
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