映画『せかいのおきく』に出演、黒木華さんにインタビュー!
――まず『せかいのおきく』の出演依頼が来た時のこと、脚本を読んだ感想について教えてください。黒木華さん(以下、黒木):短編映画として撮影した作品を改めて長編映画として撮ると聞いて「どうなるのだろう……」と思いましたが、どうなるかわからないからこその面白さがあると思い、そこに心惹かれました。
脚本で惹かれたのは、おきくと中次(寛一郎)の淡い恋愛や矢亮(池松壮亮)も含めた3人の交流ですね。とても“青春”を感じられて良かったです。
それから、江戸時代の循環型社会(※)のあり方がさりげなく描かれていたところにも魅了されました。SDGsを意識した作品と聞いてはいたのですが、脚本を読んで「こういう形になったんだ」と理解できました。
※天然資源の消費の抑制や環境への負荷が低減される社会作りを目的とした物質の効率的な利用やリサイクル。江戸時代は使えるものは何でも使い切り、土に戻すという文化が浸透していた。
「おきゃんに演じて」と言われても……
――おきくは、父を亡くし、声も失うなど、不幸が続きますが、それを乗り越えて前向きに一生懸命生きる姿が印象的でした。黒木さんはおきく役についてどう考えて演じられましたか?黒木:阪本監督には「おきくは、おきゃんな感じで演じて」と言われていたんです。最初は「おきゃんって何?」と思っていたのですが(笑)、意味を教えていただき「おきゃん(活発な女性、お転婆な女性)」を意識して演じました。
あと、おきくの魅力は、何があっても前向きに生きる、その芯の強さと元・武家の娘らしいきっぷの良さ。そういうおきくの一面も表現できたらと考えながら演じました。 ――黒木さんは文学的なイメージがあり、江戸時代の世界がお似合いだと思ったのですが、今回、阪本監督の時代劇に出演してみていかがでしたか?
黒木:江戸時代をリアルに知る人がいないからこそ、その時代に生きた人々と彼らの生活を後世に伝えるのが時代劇だと思うんです。そんな思いを胸に演じたつもりです。
あと阪本監督とは初めてのお仕事で、最初は「厳しい方なのかな」と思っていたんですが、想像していたよりも自由に演じることができました。時代考証を行いながらも、物語や登場人物たちの感情を大切にして細やかな演出をされる監督だと思いました。
時代が変わっても残したい伝統
――この映画は、映画を通して環境問題を考える「YOIHI PROJECT」の企画が元になっているそうですね。江戸時代の循環型社会を描き、矢亮(池松壮亮)と中次(寛一郎)は、肥料になる糞尿を売り買いしています。撮影現場でも環境を意識した取り組みがあったのではないかと思ったのですが、撮影を通してそれらについて感じたりしたことはありますか?黒木:着物は本当に便利で、裄丈を長くしたり短くしたりできるので、体型が変わっても長く着られます。そこにはSDGsの精神が宿っているように感じました。
――撮影は京都の撮影所だったそうですね。
黒木:はい。京都の撮影所では床山(力士や役者のまげを結い上げる職人)が減っていると聞きました。昔から受け継がれてきた伝統的な職が失われつつあるのはとても残念なことです。技術や物をもっと大事にして、この先の時代につなげていければいいなと思いました。
>次ページ:首を切られて声を失うおきく……手話のない時代を演じる難しさ