資格取得した同僚を褒められない私
マサエさん(40歳)の職場では、仕事に関連した資格取得が奨励されている。同い年でバツイチの同期・ミホさんはここ数年でいくつかの資格を取った。「周りはみんな、すごいわね、私にも勉強のコツを教えてとミホを褒め称えています。確かにすごいけど、彼女はバツイチで子どももいない。だからいくらでも時間がある。私はふたりの子を育てながらの仕事。夫は激務のためほぼワンオペ。環境が悪すぎるから、勉強できないのは当然だと思っていました」
ミホさんをすごいなと思いつつ、素直に褒めることができなかったのは、やはりマサエさんの心の中に妬みがあったからだろう。職場でつい、「ミホはいいよね、時間があるから」と言ってしまった。すると女性の先輩がやんわりと小声で、「嫌味な言い方しなさんな」とたしなめた。
「あとからその先輩に聞いたら、ミホはほぼ寝たきりの父親と足を悪くしている母親を介護しながら仕事をしているんだそう。もちろんヘルパーさんも入っているけど、その調整も彼女がしなければならないから、非常に忙しいんだとか。それを聞いて恥ずかしくなりました。私は時間がないと言い訳していただけ。本当にやる気になれば、どんな状況でもがんばる人はいるんですよね」
マサエさんが陰で何か言っていることはミホさんにも届いていたようだ。マサエさんはあるとき、ミホさんに心から謝った。自分はミホさんを妬んでいたと素直に言った。
「ミホはニッコリ笑って『気にしないで。人はみんないろんな事情を抱えているんだから。マサエみたいに子どもを育てながら働くのって大変だと思うよ』って。私、思わず泣いてしまいました。ああ、私は誰かに大変でしょって言われたかったんだとわかった」
彼女は夫に、激務かもしれないけど家事育児にちゃんとコミットしてほしい、自分も勉強したいと正面切って相談した。夫は意外そうな顔をしながら、「わかった。何も言わないから今のままでいいんだと思ってた。ごめん」と言ったそう。
「時間的にこのくらいしかできないけどと夫は、前より家事をするようになりました。きちんと言葉にして言えば、何かが開けてくるんだとこの年で初めて知った。ミホや先輩には感謝しかありません」
何かに気づいて言葉にすることができたマサエさんの行動力が、事態を展開させたともいえる。妬みやそねみというネガティブな感情を抱いたとしても、それを通して自分を変えることはできるのだ。時間がかかっても、努力は人を裏切らない可能性が高い。