自らの価値を高め、這い上がった人生
人生、こんなはずじゃなかったということは多々ある。現実と今の自分とをどう折り合いつけて生きていくのかは誰にとっても大問題だ。「それでも頑張っていれば、何かいいことがある。そう思いたいですよね」
タイガさん(40歳)はそう言う。彼は大卒後、大企業に就職したものの人間関係に疲れて3年で退職。その後は疲れた心を抱え、ときに心療内科に救いを求めながらアルバイトで食いつないでいた。同じような境遇の人とネットでつながり、励まし合って生きてきたという。30歳になったころ、ネットで親しくなった友人が、ある国家資格に合格、就職できたと声を弾ませて電話をかけてきた。
「妬みましたよ。自分だけ抜け駆けしやがってと(笑)。でも考えたら、彼はアルバイトをしながらコツコツ勉強していた。僕はバイトがきつい、心がついていかないと言いながら何もしなかった。結局、がんばった人が生き残るんだとよくわかりました。それで妬むのをやめて、僕も勉強を始めたんです。アルバイトではなく派遣社員となり、その後、契約社員となった。そしてコツコツがんばっていた勉強で会社に認められて、35歳でようやく正社員になりました。前の会社を辞めてから10年、家賃が払えないからシェアハウスに住んだこともあったし、そこでの人間関係に悩んだこともあった。でも正社員になって、さらにまじめに仕事をしていたら、上司が認めてくれるようになった。僕が人間関係の築き方が下手だとわかってもくれて、『きみのような人が、いざというとき頼りになるんだ』と言ってくれた。人間関係は下手でもいい、きみは実直で嘘をつかない。それが大事だ、と。うれしかったですねえ」
恋愛ベタでもあるので、いまだ結婚はしていないが、それについても特に焦ってはいないという。
「僕は出遅れちゃった人間なので、出遅れたままゆっくり生きていこうと思っています。結婚もできるならそれでよし、できなくても卑屈にはなるまい、と。もちろん、好きな人がいればアプローチするつもりではいます。僕は僕のままでいいんだと心から思えたことが大きな自信になりました」
誰か信頼できる人と巡り会えるかどうかは人生にとって大きい。彼は上司と巡り会って、生き直している感覚でいるようだ。
「小さなワンルームマンションに暮らしていますが、自分の働いたお金でひとりで生活できているのは本当にありがたい。贅沢はできないけど、たまには同僚とちょっと高級な焼き肉を食べたりもできる。今の職場は同世代の独身男性もいるし、既婚者もいます。それぞれにいいところもよくないところもある。あとは自分が何を選択するかですよね」
選択できる立場になったことがうれしいと彼は話す。彼とは断続的に15年ほど連絡をとりあっているのだが、苦労を重ねながらも努力を続けたこと自体がすごいことだとつくづく思う。おそらく将来への不安が高じて狂いそうになったこともあるかもしれない。だが彼はそれに打ち勝った。周りと比べてではなく、自らに勝ったのではないだろうか。