準決勝を息子とふたりで
メキシコ戦は休日だったので、リナさんと息子はテレビの前へ。夫はのんびり寝ていたようで、朝9時過ぎに起きてきた。「私たちの新婚旅行、メキシコだったんです。私がすごくメキシコに興味があって、夫は渋々ついてきた感じ。それなのにテレビの前に陣取って、息子に『おとうさんは昔、メキシコに行ったことがあるんだ』と語り始めた。息子は『さっき、おかあさんに聞いた』とにべもない。私は思わず噴き出しちゃったんですが、夫はつまらなそうな顔をしていました」
おそらく息子に「おとうさん、すごい」と言われたいし言わせたいのだろうと、リナさんは想像している。だが、息子とキャッチボールひとつしたことのない夫が、野球に関して息子から尊敬を得られるとは思えないという。
「そうやって時流に乗って、息子にいい顔したいと思うこと自体が、なんだかせこいなあと思うんですよ。夫はじっくり話すのが苦手なのか、日頃から息子の意見をきちんと聞こうとしない。6歳にもなれば、自分の意見も持っているし、親としてはいかにそれを引き出して話し合うかを考えなければいけないと思うんですが、どちらかというと上から自分の言うことを聞かせようとするのが目立つ。私はそれはやめてと言っているんですけどね。夫の教育がまず先かもしれません」
息子になめられていると焦る父親の気持ちが、リナさんには不思議でならないそう。子どもはひとつのことに夢中になると、さまざまな知識を一気に詰め込むことがある。世界中の国旗を知っている子とか、鉄道の駅名をすべて言える子とかもいる。記憶力もいいから大人は太刀打ちできない。
「そんなところで子どもと競っても意味がない。そもそも、子どもは自分が覚えたことを言いたいだけで、親をなめているわけではないでしょ。子どもの好きなことを、好きなようにさせておけばいいんじゃないかと思うんです。私たちは子どもが好きなことを阻害しないこと、そしてさらにそこから興味を広げてやることが大事じゃないんでしょうか」
夫のせいで息子が野球に興味を失ったらかわいそうだと彼女は言う。
野球の一件で、夫の弱点が一気に見えてきたというリナさん。今後の父と子の関係、夫と自分の関係も、もう一度考え直したほうがいいと肝に銘じている。