胎児の頃から徐々にでき、増え始める「脳のシワ」
母親のお腹の中で発達していく胎児の脳。徐々に「脳のシワ」も増えていきます
私たち人間の大脳皮質には、たくさんのシワがあります。正式には「脳溝(のうこう)」というものですが、ここではわかりやすく「シワ」と表記します。「「赤ちゃんの脳にはシワがない」は本当か?脳のシワのでき方」で解説したように、赤ちゃんの脳が発達していく過程を詳しく調査した研究論文(J.C. Larroche, , Human Development, 257-296, 1966)によると、大脳皮質ができ始めた初期の段階ではまったくシワがありませんが、少しずつ大きくなるにつれて徐々にシワが増えていきます。しかも、興味深いことに、脳のどこにシワができるのかが決まっているのです。
胎生15週齢になると「外側溝」のもとになる「原始外側溝」が出現し、次いで19週齢になると、最初の脳溝に相当する「輪状溝」ができて、それによって囲まれた脳回部として「島(とう)」が形成されます。22~24週齢になると、前頭葉と後頭葉を分ける「中心溝」CSができ始めるとともに、島を形成した輪状溝が延長して、頭頂葉と側頭葉を分けるように「外側溝」ができてきます。側頭葉が大きく張り出してくることで、外側溝が深くなり、先に形成されていた「島」の一部を覆い隠すようになります。
さあ、この先どうやって赤ちゃんの脳がさらに発達して、大人の脳へと近づいていくのでしょうか。24週以降の胎児の大脳皮質のシワの変化を追ってみましょう。
7ヶ月目くらいでそろう、誰もに共通した「一次大脳溝」
28週目の胎児の脳を下図に示しました。24週を過ぎると、それまでに形成された大脳溝がさらに深くなり、28週ごろには、外側溝(図の青線、LS; lateral sulcus)の下部の側頭葉に「上側頭溝(オレンジ色の線、STS; superior temporal sulcus)」が現れ、中心溝(赤線、CS; central sulcus)」より前部の前頭葉に「中心前溝(水色の線、PCS; precentral sulcus)」、後部の頭頂葉に「中心後溝(緑色の線、POCS; postcentral sulcus)」 が現れます。この時期までに現れる5つの主要な大脳溝、すなわち「外側溝」「中心溝」「上側頭溝」「中心前溝」「中心後溝」は個体差が少なく、一次大脳溝とまとめて呼ばれます。 すべての人間に共通した大脳皮質のシワの基本がこの段階でできあがるというわけです。
7ヶ月を過ぎると、大脳溝に個性が出てくる
28週を過ぎてから現れる大脳皮質の脳溝は、「二次大脳溝」と呼ばれ、個体差や左右差が少しずつ出てきます。下図は、32週齢胎児の大脳皮質で見られる脳溝の一例を示しています。 一次大脳溝がより深くなるとともに、新たに二次大脳溝が加わり、少しずつ複雑になってきているのが分かりますね。 側頭葉では、上側頭溝の下に平行するように「中側頭溝(紫色の線、MTS; middle temporal sulcus)が形成されます。また、図では示せていませんが、側頭葉の底面には、下側頭溝(ITS; inferior temporal sulcus)も形成されます。さらに、前頭葉、頭頂葉、側頭葉の発達に伴い、島皮質(ピンク色)がだんだんと覆い隠され、外側溝は後方から前方へと閉じてきます。 中心溝は、前頭葉の発達に伴って後方へ移動してきます。
下図は、37週齢胎児の大脳皮質で見られる脳溝の一例を示しています。細かい二次大脳溝がさらに増えて、より複雑になってきているのが分かりますね。
頭頂後頭溝(茶色の線、POS; parieto-occipital sulcus)が形成され、頭頂葉と後頭葉の境界が明確になります。