男性本人も困惑していた
マキさんはその後、その若い男性社員にも話を聞いたという。すると彼・リョウタさんも、廊下を4人で歩く様子をマキさんたちが見ているとわかっていた。「男4人が縦一列で歩いているのは異様だったと思いますと、彼は言っていました。タクシーではやはりリョウタさんが後方真ん中席、しかも笑ったのは、行った先の飲食店でも彼は下座だったそうです。彼のための会ではなかったのかしら?と思って」
いちばん上の局長にごちそうしてはもらったものの、彼としてはちっとも楽しくない時間だったという。
「上司が部長を褒めそやし、部長が局長を褒めそやす。そして局長が『きみは、こんないい上司たちをもって幸せだな』とリョウタさんに言う。リョウタさんは『すべて局長のおかげです』とつぶやく。手を替え品を替え、話題が変わっても方法は同じ。おべんちゃらは止まらない。そんな感じだったようです。リョウタさん、お酒の酔いだけではなく、その人間関係の嘘くさい濃さみたいなものにあてられて、一次会だけで帰ったそう。彼らの世代には、もうオス社会の掟は通じないような気がしますね」
これまた、女性同士だったらどうなるかをマキさんは想像してみたという。
「まあ、もちろん人によるけど、今の私の上司は女性なんですよ。彼女がかなりトップのほうにいったら、そういう会合自体がなくなるでしょうね。もし、ご褒美の意味でごちそうするなら、彼女は若い社員とふたりきりで行くんじゃないかな。そういうタイプの人だから」
女性がトップに近い位置にいることが少ないから、なかなか容易に想像はできないが、少なくとも長い歴史のある「男性社会」とは違うものになるはずだとマキさんは言う。
「学生時代のサークル仲間に先日、会ったんですが、大きな企業に勤めている人ほど『ザ・オス』になっていましたね。あの頃、企業に都合のいいような社員にはなりたくないと言っていたのに……。この年で『今どきの若いもんは』なんて言うし、『やっぱり根回しは必要だよ。周りを固めてから上をじわじわ攻めないと、通るものも通らない』って。私なんて面倒だから、他部署と仕事をするときは、まずトップから攻めますけどね。そう言ったら『ああ、女性はよくそういうことやるよね、でもそれをするとあとで部内が面倒なことになるんだよ』って。男のメンツが絡むらしいです。そんなものいらんと言ってやりました(笑)」
今の30代以下の世代が、そういう社会を変えるのかもしれない。