「異次元の少子化対策」はどこへ?
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「うちはひとりで諦めました」
マリコさん(36歳)はそう言う。3歳の長女を保育園に預けて、夫とともにフルタイムで働いているが、マリコさんは正社員で夫はパート。だが夫の年収は200万円を超えているのでマリコさんの扶養には入れない。
「夫は前職を病気で辞めているので、なかなか正社員への道がなくて。娘にはできる限りのことをしてやりたいし、本人が望むなら習い事もさせたい。そう考えると、ふたり目を産む気にはなれませんでした。職場の同世代もみんな悩んでいますね。どうせならふたり欲しいけど、やっぱり無理よねって。どうしてこんなふうに暮らさざるを得ないんだろうと思う。安心して子どもを産み育てることができない社会なんだなあ、子どもをもつことが貧乏への道なら、誰も子どもなんか産まないし、結婚だってしなくなりますよね」
逆に安心して産み育てることができるなら、たくさん子どもがほしいという人は少なくないのだ。
子どもをもうけ、育てているだけで貧乏になる。生活していくのに必死で「幸せなんて感じられない」と言ったシングルマザーもいる。こういった言葉を政府はどう聞くのだろうか。
もちろん、経済的な問題だけではない。
「子どもを連れていると不安なことだらけ。ひとり抱いてひとりベビーカーで出かけたときなんて、1日中、見知らぬ他人に謝っていましたよ」
ミナさん(37歳)は表情を曇らせた。3歳と1歳の子をもつ彼女は、めったに電車には乗らないようにしている。だが、実家の母親が昨年倒れたため、ときどきは行かざるを得ない。
「電車に乗っても街を歩いても、子育て中の母親に世間は冷たい。もちろん、満員になるような時間帯には乗りませんよ。それでも子どもが泣きだしたときの周りの目に耐えきれず、電車を降りたことが何度もあります。ついでに買い物をして帰ろうと思っても、1歳が泣き出す、3歳が歩き回るでどうにもならない。そんなときスーパーで『子どものしつけくらいちゃんとしたらどうなんだ』と年配の男性に言われたことがあるんです。『私らが若いときは、人前ではおとなしくしているようしつけたもんだ』って。心が折れて、思わず泣いてしまいました。周囲にいた人たちは遠巻きに見ているだけ。男性の声が大きかったので店員さんが駆けつけてくれましたが、涙が止まらなかったですね」
もちろん、そんな男性ばかりではないのはわかっているし、そんな人に出会ってしまったのは運が悪かっただけだとミナさんは言う。それでも、子育てでいっぱいいっぱいのときに赤の他人から批判されるのはつらい。
かつて、子どもは社会の宝といわれた。今だってそうだ。子どもを温かい目で見守ることは、未来を明るくすることにもつながっていく。
経済のみならず社会的にも、子どもや、その子どもを育てている人たちがつらい思いをしているのは「社会」として何かが欠けているのではないだろうか。