記憶の種類…短期記憶とは何か
短期記憶とは? 長期記憶との違いはなにか
学問領域や学者によって、記憶の分類はさまざま提唱されていますし、どういう基準で分けるかにもよるので、はっきり何種類とは言えませんが、覚えている時間による分類だと、大きく2種類に分けられます。一時的に頭に残るけれど時間が経つと消えてなくなる「短期記憶」と、ずっと忘れず頭に残っている「長期記憶」です。
今回は、短期記憶についてわかりやすく解説します。
短期記憶の時間…数十秒~数分しか残らない記憶
私たちが見たり聞いたりしたことは、とりあえず一時的な「短期記憶」として頭の中に残ります。しかし、その記憶は、特別な意味のあることでも起こらない限り、時間の経過とともに消えていきます。どれくらい残るかは、情報の内容や刺激の強さによって多少変わってきますが、だいたい数十秒~数分しか残らないことがほとんどです。分かりやすい短期記憶の例を挙げると、いままで電話をかけたことのない相手の電話番号をネット検索などして調べてメモを取り、そのメモを見ながら固定電話を使って電話をかけたとします。メモから数字を読みとって実際に電話機のボタンを押すまでの間は、少なくともその数字が頭に記憶されています(記憶できなければ、正しい数字のボタンは押せません)。しかし、電話をかけ終わって5分くらい経った時に、その電話番号を覚えているかと言うと、もう一度かけられるように覚えておかなきゃと思って意識的に覚えておいた場合を除けば、たいていは忘れてしまっていますね。
せっかく覚えたことを忘れてしまうのは勿体ないと思われるかもしれませんが、見たり聞いたりしたことのすべてを永久に覚えていこうとすると、記憶の倉庫がすぐにいっぱいになってしまいますから、一度実行したらもう二度と必要とすることないような情報は、そのたびに残さないようにしたほうが合理的です。
短期記憶の容量…男女、年齢などを問わず最大7つ程度
記憶の容量には限りがありますが、短期記憶の場合も同じです。実際に短期記憶の容量はどれくらいなのでしょうか。「数字の並びを一瞬見せて暗記をしてもらう」というテストをすると、短期記憶の容量を知ることができます。みなさんにも体験してもらいましょう。これから、何桁かの数字の並びを示しますので、それを口に出して読むか、あるいは黙って心の中で読み取ってください。そしてその直後に、画面から目を離し空でその数字を復唱してみてください。画面をもう一度見て、正しく言えたことが確認できれば成功です。ではいきますよ。まずは第1問から。
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どうでしょうか。5桁の数字がすべて頭に入り、空で正しく復唱できましたか。全員が間違いなく、画面を見ないで「サン・ハチ・ゼロ・ヨン・二」と言えたはずです。では同じ要領で、第2問にいきますよ。はい、どうぞ。
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どうでしょうか。7桁の数字になったので、さきほどよりは少し難しく感じたかもしれませんが、ほとんどの方がクリアできたことでしょう。では第3問です。
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う~ん。ちょっときびしいですね。中にはクリアできた人もいるかもしれませんが、数字を読み取っているうちに、一度読み取ったはずの数字が消えていく感じがして、一部しか頭に残らなかったという方が多いのではないでしょうか。では最終問です。
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もうだめですね。読み取ろうとした途中で「もう無理だ」という感じがしたことでしょう。クリアできた人はいないはずです。もしいたとすれば、たとえば「語呂合わせ」を使うなど、ただの記憶には頼らないテクニックを利用したのではないでしょうか。数字をそのまま読んで頭に入れようとした場合、12桁の数字は入らないはずです。
種明かしをすると、私たちの短期記憶の容量は、おおよそ「7」であることが分かっています。しかも、ほとんど個人差がありません。男女、年齢などを問わず、人間の短期記憶の容量は「7」と決まっているのです。私は、上でみなさんにトライしてもらったようなテストを、大学の授業中や様々な講演会などで何度も試したことがありますが、毎回結果は同じで、「一度に覚えられる数字の並びは最大7個くらいまで」となります。
ただし、このことを見つけたのは、もちろん私ではありません。約70年前にアメリカのジョージ・A・ミラーという心理学者が初めて発見して報告しました。その発表論文(Psychological Review, 63(2), 81-97, 1956)の中で、ミラー博士は、短期記憶の量が7と決まっていることについて「マジカルナンバー7」と言い表しています。
マジカルナンバー7とは…身近な生活の中にみられる多くの「7」
私たちの身の回りには、「7」があふれています。いくつか例をあげてみましょう。まず挙げられるのが、一週間の曜日の数です。日、月、火、水、木、金、土。そう、一週間は7日です。でもなんで7日なんでしょうか。改めて考えると不思議ですね。
次は、ピアノの鍵盤で表される1オクターブの音階の数です。ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ。そう7個です。なんで7個なんでしょうか。
また、春や秋に野原に生えている草花はたくさんあるはずですが、私たちは「春の七草」「秋の七草」と分類し、あえて7種類の草をグループ化して、まとめて呼んだりします。虹の色は、連続的なスペクトルなので、科学的には何色から成ると決定できるはずはないのですが、日本では「虹は7色」が常識とされています。お子さんが虹の絵をかいたときに色が5色しか使っていないと、「虹は7色だからもっと色を増やして」などとアドバイスする親御さんもいるくらいです。他には「世界の七不思議」なんてのもありますね。
ことわざにも7が含まれたものが多くあります。「親の光は七光り」「男は敷居を跨げば七人の敵あり」「色の白いは七難隠す」「無くて七癖」など。
あと、映画やドラマでも、7人を集めたものがたくさんあります。何か思いつきますか。「七人の侍」「七人の刑事」「男女7人夏物語」などは多くの方がご存じでしょう。他には、神様が七人集まったのが「七福神」。ディズニー映画の白雪姫に登場する小人も7人です。あと、アイドルグループAKB48の「神7」なんてのもありましたね。なんで7人ばっかりなのだろうと思いませんか?
短期記憶の容量から見てもちょうどよい「7」という数
実は、ドラマやグループを作るときに、7人が選ばれることが多いのには理由があります。登場人物が2~3人ですと、分かりやすいですが、単純であまり面白くありません。逆にメインとなる登場人物が10人以上になると、多すぎて覚えきれませんし、複雑すぎて何だかわからなくなってしまう恐れがあります。実は、「7」という数は、それなりに多くて、かつ私たちの脳が一度に把握できる、ちょうどよい数なのです。
私たちの生活の中に「7」が多いのは、一時的に覚えられる数、つまり短期記憶の容量が7であるということに深い関係があるに違いありません。
ちなみに、私は本を執筆するときには、できるだけ7章立てにすることにしています。それくらいにしていると、少なくも多くもなく丁度いい分量と感じられるからです。みなさんも、何か企画書やレポートを作成するときには、7項目を挙げるといい感じになると思います。短期記憶の容量が7であることを意識して、利用してみてはいかがでしょうか。