まずは別居
ケイさんは、娘の生活環境を変えたくなかったので、夫を追い出した。夫が若い彼女の元に走るなら、それもしかたがない。相手が妊娠しているなら、早く離婚して結婚したほうがいいのではないかとも伝えた。「でも夫は『妊娠なんてするはずないんだよ、何かの間違いだよ』と。この期に及んでみっともない言い訳するな、とたたき出しました(笑)」
夫は彼女の元へはいかず、自宅近くにアパートを借りた。「娘に会いに行っていい?」とたびたび連絡が来るのには閉口したが、娘に会わせない理由はなかった。
「その後、彼女の妊娠が嘘だとわかり、夫は彼女に別れを告げたそうです。だからといって、私が夫を迎え入れる理由にはならない。どうしたら許してもらえるのかと聞かれました。私、平気な顔をして仕事にも行ってましたが、心の中は常に煮えくり返ってイライラしていたんです。このイライラがおさまって、夫との関係を客観的に見られるようにならないと結論は出せないと夫に伝えました」
ケイさんは、双方の両親にはこの話を伝えていない。あくまでも夫婦の問題は夫婦だけで話し合うべきだと思ったからだ。
別居してから半年ほど経過したころから、夫はケイさんと話し合いたいとしきりに言うようになった。「離婚だ」と離婚届を叩きつけたケイさんも、話し合いを拒絶するほどの怒りはすでになかった。
「それから週に1回くらいですかねえ、夫が週末やってきて、娘とひとしきり遊んでから、ふたりで話すようになった。浮気の件を話すというより、今週はどうしてたかとか、昔一緒に観た映画の話とか。たわいもないことを話しながら、お互いに自分の気持ちを確認していたのかもしれません」
そんな状態が1年ほど続いた。半年ほど前、ケイさんと娘が相次いで新型コロナに感染した。ケイさんは夫に伝えなかったが、娘がSOSを出した。
「娘は軽症だったんですが、私は高熱を出して完全にダウン。夫は私を隔離しながら、家事をすべてやってくれました。久しぶりに大好きな夫の焼きそばを作ってもらって。それですべてを許したわけではないけど、あのころから少し気持ちが変わっていきました」
夫も、「家族でいたい」としきりに言うようになった。半年ほどはほとんど会わず、1年間で少しずつ距離を詰め、あとの半年で関係は柔軟になっていった。
「やっぱりもともと家族だから戻りましょうというのは嫌だったんです。彼と新たな関係を構築できるかどうかが私には重要だった。これからは娘も大人になっていく。最後、ふたりで一緒にいたいと思える関係が作れるかな、と言ったら、『オレにはきみしかいない。よくわかったよ。家族でいたいのも本音だけど、人としてきみを心から大事に思ってる』と言ってくれたんです。それで再同居を決めました」
男女関係もすぐに戻った。間があいたせいか、最初は慣れない感じで気恥ずかしかったが、いつしか以前より感覚が鋭くなっていた。
「信頼関係はあっけなく崩れたけど、お互いにその気ならまた築くこともできるんだとわかりました。別居したり同居したり忙しいねと友人には言われましたが、信頼できないまま自分をごまかして一緒にいることはできなかった。今となってはいい別居期間だったと思っています」
建設的で前向きな別居期間をもうけるのは、いい結婚生活を続けるために必要なことのひとつになり得るのかもしれない。