冷たいと思われることも
職場でも、パート仲間のなかで浮いていると感じることがある。「みんな、当たり障りのない世間話をしたり、ときには誰かの悪口を言ったりして親密さを深めていくようですが、私は、どうしてそういう話で盛り上がれるのかわからないんです。数人で集まって噂話などをしているところに出くわすと、すっと別の場所に行くようにしています。だから私は人になじまない冷たい人間と思われているみたい」
話すのが嫌なわけではない。漫画やアニメソングなど、好きなものについてはかなり情熱的だ。それが「主婦で母が好きそうなこと」のカテゴリーからはずれているだけのことかもしれない。
「ネットで共通の趣味を持つ人とは盛り上がっていますが、夫は私の好きなことには無関心。『漫画に夢中になるなというのは、子どもに言うことだと思ってたよ』と苦笑されたことがあります。40歳の主婦・母はそういうことに興味を持たないと決めつけているんですよね」
家族の時間をないがしろにしているつもりはない。だが、夫は家族第一の人だから、ときに子どものことについても客観的になるエリさんを「理解できない」とも言うそうだ。
「子どもは私の所有物ではないので、子どもの意志を尊重すればいいだけのこと。面倒を見るべきときは見ています。でも夫は『母親は常に家庭内で太陽のような存在でなければならない。陰キャで母親はできない』と言い張るんです。自分が否定されているような気がして、悲しいですね」
母は常に明るくなければいけないというのも、幻想であり押しつけだろう。エリさんが無理して明るく振る舞ったところで、嘘っぽいのではないだろうか。実際、話していてエリさんが極端に暗いという印象はない。笑顔もきれいだ。
「夫がいつもテンション高くて明るいから、比較されれば暗いんだろうとは思います。でも私自身、明るくて誰からも好かれる性格、みたいなものを信じていないんですよ。夫はそれを無条件に信じている。そこをどうやって歩み寄ったらいいかわからなくて……」
落ち着いて物事を冷静に判断する妻と、感情を優先させて楽しいことばかり選択したがる夫。このように言い換えると、陰キャと陽キャだけのレッテル貼りは間違っているとわかる。結局は「陰キャでオタク」と感じているのは、あくまで夫の主観なのではないだろうか。あるいはそれを「よくない」とする夫の価値観の問題かもしれない。
「どちらかといえば陰キャでオタク気質だという自覚はありますが、それと夫の性格を秤にかけて、どちらがいいとか悪いとかは言えないと思うんですよね……」
お互いがお互いを認めるところから、歩み寄りが始まるのではないだろうか。ここまで性格が違うと、逆に補足しあえるから夫婦としてはバランスがいいともいえる。
自分が「悪い」わけではないと思えたのだろうか、エリさんはたっぷり話したあと、ようやく笑みを浮かべた。