仕事・給与

日本人の中間層の世帯所得は約374万円、年々下がっている?対策は?

内閣府によると、日本人一人当たりの賃金はこの30年間横ばいであり、諸外国と比べ大きな差があることが報告されています。また、全世帯所得の中央値は374万円であり、25年前に比べて約130万円も低い実態も分かりました。全世帯所得の中央値は、日本人の中間層の所得であるといえるかもしれません。今回は、所得が上がらない理由と政府の今後の政策方向性を解説してみます。

川手 康義

執筆者:川手 康義

ファイナンシャルプランナー / サラリーマン家庭を守るお金術ガイド

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《目次》
日本の賃金伸び率は30年で103%
日本の全世帯所得の中央値は374万円
新しい資本主義とは
分配戦略の柱(1)「賃上げ」
分配戦略の柱(2)「人への投資」
「人への投資」は5年間で1兆円規模に
まとめ
 

日本の賃金伸び率は30年で103%

内閣府の令和4年度年次経済財政報告によると、日本人一人当たりの実質賃金(*)の伸び率は、この30年間で103%であり、1991年からほぼ横ばいであることが分かりました。

*実質賃金とは、受けとった賃金に物価の影響を加味したもの
日本,実質賃金,比較,1991,2020,103%,横ばい

日本人の一人当たり実質賃金は30年間横ばいです(出典:内閣府)


これはイギリス144.4%、アメリカ146.7%、ドイツ133.7%、フランス129.6%に比べて非常に低い率であり、バブル崩壊後の日本経済の停滞が賃金にも表れています。

また、賃金が伸びてこなかった理由として、報告書では次の4点があげられています。

1:デフレ(物の価値低下)の長期化で企業の稼ぐ力が低下した
2:企業が賃金を人への投資ではなくコストと捉え十分な配分を行わなかった
3:女性や高齢者の社会進出で非正規雇用が拡大した
4:定年延長等の影響で賃金カーブが緩やかになった
 

日本の全世帯所得の中央値は374万円

日本人一人当たりの賃金が伸び悩む中で、世帯所得はどのようになっているのでしょうか。

単身世帯や高齢者世帯の増加といった世帯構造の変化の影響もあり、2019年の全世帯所得の中央値は374万円であり、これは日本人の中間層の所得といえるかもしれません。1994年の中央値は505万円であったことから、この25年で約130万円も減少したことになります。
全世帯,所得中央値,374万円,2019年,505万円,1994年

日本の全世帯の所得中央値は374万円です(出典:内閣府)


その中でも特に35~54歳の世帯所得減少が顕著であり、35~44歳世帯の中央値は464万円(1994年は566万円)、45~54歳世帯の中央値が515万円(1994年は690万円)とそれぞれ約100万~175万円の減少幅となっています。
35歳,54歳,世帯所得,中央値,2019,1994,464,515,566,690

35~54歳の世帯所得中央値の減少が顕著です(出典:内閣府)


35~54歳といえば、社会においても家庭においても中心的な役割を担う年齢層であり、この層の世帯所得が低いことは、日本の消費活動が冷え込む要因となります。

これまで解説したようにバブル以降の日本社会は一人当たりの実質賃金が頭打ちであり、全世帯の世帯所得は減少、中でも35~54歳のいわゆる責任世帯所得の減少幅が特に大きく、日本経済の停滞に悪影響を及ぼす大きな要因になっています。

(注)上記で紹介している所得は、税や社会保障による再分配後の金額です
 

新しい資本主義とは

このような状況の中、岸田総理は「新しい資本主義」を掲げ所得の向上を目指していますが、それはどのようなものなのでしょうか。

キーワードは、企業の稼ぐ力を高める「成長戦略」と、稼いだ原資を賃金に反映する「分配戦略」です。「分配」により消費を拡大させれば、新たな需要が惹起される。すると、企業は新たな投資活動を始め「成長」につながる。いわゆる「成長と分配の好循環」を目指そうとしているのです。
あたらしい資本主義,成長,分配,岸田総理

新しい資本主義の柱は「成長」と「分配」です(出典:首相官邸HP)

 

分配戦略の柱(1)「賃上げ」

分配戦略の柱の1つは「所得の向上につながる賃上げ」とされ、その中では以下の項目があげられています(一部抜粋)。

●2022年2月から「保育士」「幼稚園教諭」「介護・障害福祉職員」は収入を3%程度(月額9000円)、コロナ医療などを担う医療機関に勤務する看護職員は、10月以降の収入を3%程度(月額平均1万2000円相当)引き上げる仕組みを段階的に実施

●2022年4月~2024年3月末まで中小企業が従業員給与を上昇させた場合、その増加額の一部を法人税(個人は所得税)から税額控除できる仕組みの要件簡素化、控除率の拡充(最大25%→40%)

●最低賃金の加重平均が、早期に1000円以上になるような取り組みの実施
 

分配戦略の柱(2)「人への投資」

分配戦略の2つ目の柱は「人への投資の抜本改革」であり、その中では以下の項目があげられています(一部抜粋)。

●正規雇用・非正規雇用に関わらない、学びなおし(リカレント教育)や職業訓練、正社員化やステップアップのための求職者支援制度・雇用調整助成金の拡充による、労働移動の円滑化・人材育成支援

●コロナ禍における「テレワーク」を促進する企業への支援、「副業・兼業」の促進のためのガイドラインの改定、週休3日制の普及などの推進による多様で柔軟な働き方が選択できる環境整備

●企業の人的投資取組など非財務情報を有価証券報告書に開示するための検討、2022年中の開示ルールの策定

●フリーランスが安心して働ける環境整備、事業者とフリーランスの取引適正化のための法制度の策定
 

「人への投資」は5年間で1兆円規模に

2022年10月12日、岸田総理は都内で行われた「日経リスキリングサミット」において、「人への投資」は新しい資本主義の要であり、以下の3本柱で進める方針を打ち出しました。

*リスキリングとは社会人における「学びなおし」のこと

●転職・副業を受け入れる企業やリスキリング後に非正規を正規雇用にする企業への支援の新設や拡充

●在職中のリスキリングから転職先探しまで民間の専門家に一括して相談できる制度の整備

●従業員のリスキリングに取り組む企業への支援拡大

なお「人への投資」に投入する額は、5年間で1兆円規模とされています。

これを受け2022年10月中には、自民党内に「DX(デジタルトランスフォーメーション)時代のリスキリング振興議員連盟」が発足、前述した3本柱を裏付ける具体策を立案する予定です。
 

まとめ

このように政府が「人への投資」、特に「リスキリング」を重視した政策をとることは、我々にとっては所得を向上させる上でも、自身のキャリアを考える上でも大きなチャンスです。若い世代は、自分を中心としたキャリアプランの考え方をお持ちの方も多く、具体化する政策を利用し、幅広いキャリア形成や複数からの所得獲得が可能になると思います。

一方で、バブル前後に入社した50代以上の多くの方がお持ちの、終身雇用を前提とし会社を中心においた社内キャリアパスの考え方は修正が必要かもしれません。

「リスキリング」により自分自身の市場価値を高めることは、企業が欲する人材につながるでしょうし、コロナ禍での雇用不安も和らぐでしょう。また、副業・兼業を認める企業が増加していく中で、新たな所得獲得の可能性も広がるのではないでしょうか。

《参考》
内閣府/令和4年度年次経済財政報告
首相官邸/未来を切り拓く「新しい資本主義」

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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