夫はともにプロ野球選手だが、収入でかなり格差があるらしい。また被害を受けたA自身も芸能活動をやめてはいない。自身もモデルだった経験のあるBは、A夫妻の生活ぶり、そしてAに対しても嫉妬したのだろう。だからといって誹謗中傷が許されるはずもないし、ネット上は匿名でも発信者は容易にわかるもの。嫉妬が憎悪に変わって、自分を止められなくなってしまったのだろうか。
環境が“似ている”からこそ嫉妬心が湧く?
「私もやられたことがありますよ、SNSではなくリアルで。あの当時はまだSNSは今ほど多くの人がやっていたわけではなかったから」そういうのはフミさん(43歳)だ。8年前、結婚して5年目のことだった。フミさんの夫は転勤族で、そのときは3歳の子とともに転勤先の社宅で暮らし始めていた。
「妊娠6カ月で引っ越しして……。大変でした。社宅は初めてじゃないし、どこへ行っても明るく元気にしていればやっていけるだろうと思っていた。私自身は在宅でIT関係の仕事をしているんです。その社宅での隣人は、夫が同い年、奥さんのエリコさんも在宅で仕事をしていて、子どもも同い年。私は『環境が似た人がいてうれしい。仲良くしてくださいね』なんて言っていたんです。本当にそう思っていました」
ところが職場では、フミさんの夫のほうが階級が上だった。転勤したばかりだったが、フミさんの夫も無類に明るいタイプで、早速、宴会で爆笑をとったらしい。
さらにエリコさんはフミさんの在宅の仕事について根掘り葉掘り尋ねてきた。当たり障りなく答えたのだが、仕事が順調であることは伝わったらしい。エリコさんは在宅での仕事がうまくいっていなかったようだ。
「夫の階級だとか私の仕事だとか、近所づきあいするには何の関係もないと思うんですけどね。どうやら妬まれたみたいです。子どもを保育園に預けていたんですが、あるとき私が仲良くしてもらっていた女性から『エリコさんがあなたの悪口を言いふらしているから気をつけて』と言われた。悪口言われるようなことはしていないけどと言ったら、『自分の仕事を取ったって言ってる』『ダンナさんは上司に取り入るのがうまいとも言ってる』と。私はエリコさんの仕事内容も知りませんしね。夫とも話して、放っておくしかないよねということになって」
ところが反応しなかったことでエリコさんはさらに怒りを強めたのか、ある日、玄関の新聞受けにメモが入っていた。
自宅に届いた脅迫文、警察に相談すると
メモには「子どもの行き帰りに気をつけろ」と書いてあった。保育園にすぐに連絡すると同時に警察にもメモをもって相談に行った。「行き帰りに気をつけろ、だけでは脅迫にはならない。でもパトロールはしてくれることになりました。なんとなく外を歩いていても見張られているような、嫌な感じだったし、子どもに何かあったらどうしようと怖かった。こっちも妊娠中だし機敏には動けない。それから3週間後、今度は『いい気になるな、ブスのくせに。シネ』と書いてあった。手書きですが、わざと角ばった変な文字でした。気持ちが悪かったし、死ねと書かれたら立派な脅迫文ですからね。警察も動き出しました」
夫は会社にも報告していた。そしてある日、隣家の夫が訪ねてきた。妻がやったと白状している、とお詫びに来たのだ。エリコさんはフミさん夫婦に根拠のない嫉妬を抱き、なんとかつぶしてやろうと思っていたのだとか。エリコさんの夫は、フミさん夫婦に対してなんの悪意ももっていなかった。
「社宅であんな怪文メモを入れたら、誰がやったかいずれはばれますよね。精神的に追いつめられるほどではないと私自身は思っていたけど、実際はストレスを覚えていたんでしょう。エリコさんの夫がお詫びに来た翌週、早産となってしまって。赤ちゃんは小さかったけど、なんとか無事でした。でもそれを知ったエリコさんの夫は結局、退職届を出して越していきました。ダンナさんがかわいそうだった」
エリコさん夫婦の関係がもともとどうだったのか、その後、どうなったのかはわからない。だが人を妬んでいいことなど何もないはず。
「それでもきっと自分の頭の中で嫉妬が渦巻きだすと、どんどんエスカレートしてしまうんでしょうね。気持ちはわからなくはないけど、大人はそうならないよう自分をコントロールできるはず。エリコさんにも子どもがいたわけだし、そんなことにエネルギーを消費しないで、もっと楽しく生きていけばいいのにと思いました」
誰もが陥る可能性のある「嫉妬の闇」。だが誰かを妬むくらいなら、目の前の楽しいことを探したほうが建設的。それだけは自分も肝に銘じておきたいとフミさんはつぶやいた。