ビタミンB12の目薬は赤色!実は色で分かる点眼薬の成分・効能

【薬学博士・大学教授が解説】薬局で売られている目薬には、鮮やかな色がついているものがあります。着色されているわけではなく、有効成分の色そのものです。赤色の目薬に入っているのは眼精疲労を改善するビタミンB12です。わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

目薬の色の違いは? 実は色だけでわかる有効成分

眼精疲労に効く目薬

目の疲れにはビタミンB12の入った目薬が効果的です。市販の目薬の選び方は?

疲れ目、充血、目のかゆみ。みなさんもいろいろな症状にあわせて、目薬(点眼薬)を使うことがあると思います。そして、そんな目薬に、赤・黄・青などのきれいな色がついているものが多いのにお気づきでしょうか。鮮やかな色がついていると、何だかよく効きそうに思えますね。しかし、これらの色がついているのは、売り上げを伸ばそうと見た目をよくしているわけではありません。
 
薬には、錠剤や顆粒、液剤など、様々な形状がありますが、色は圧倒的に白色または透明のものが多いです。飲み薬の場合は、「飲み忘れを防ぐ」「使用目的が分かるようにする」などの理由で、添加物などを加え、着色しているものもあります。しかし目薬の場合は、着色目的での添加剤の使用は認められていません。そのため、目薬の色は、そのまま含まれている有効成分の色が現れているのです。

目薬の赤色の元は「ビタミンB12」、黄色は「活性型ビタミンB2(フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム)」、青色は「アズレンスルホン酸ナトリウム」という薬効成分です。しかも、これらの成分の含有量が多いほど、色は濃くなります。成分表示を確認しなくても、見た目の色で成分やその含量が区別できるというのは、薬局で自分が欲しい目薬を探すのに便利ですね。

今回は、赤色の目薬である「ビタミンB12」の効果について、わかりやすく解説しましょう。
 

ビタミンB12の目薬の効果は「眼精疲労の改善」

「ビタミンB12」は、水溶性のビタミンB群の一つで、欠乏すると末梢神経障害や悪性貧血が生じることが知られています。目を使う作業を続けることを原因として、目の疲れや痛みなどの症状に加えて、頭痛や肩こりなどの全身症状も呈するようになる状態を「眼精疲労」と言いますが、ビタミンB12は、眼精疲労を改善する効果が期待され、目薬に添加されています。

ビタミンB12は、分子量約1350の比較的大きな有機化合物で、複雑な立体的構造をしています。その特徴の一つは、中心に金属の「コバルト(Co)」を含んでいることです。コバルトについた置換基によって4種類あることが知られていますが、目薬に入っているのは、もっぱらコバルトにシアノ基(-CN)が結合した 「シアノコバラミン」です。下図には、シアノコバラミンの化学構造を示しておくので参考にしてください。
ビタミンB12,シアノコバラミン,コバルト

ビタミンB12の一種、シアノコバラミンの化学構造。中心にコバルト(Co)があることに注目。

シアノコバラミンは、1948年のほぼ同時期に、英国グラクソ・ラボラトリーズ社のレスター・E・スミスらと米国メルク・アンド・カンパニー社のエドワード・L・リックスらによって発見され、cyano + cobalt + vitamin から cyanocobalaminと名付けられました。
 

ビタミンB12のトリビア、『ハリー・ポッター』の共通点

ビタミンB12の赤い色は、実は「コバルト」の色を反映しているので、ここで少しコバルトのことをお話しましょう。

コバルトは、原子番号27の元素で、ドイツ語のコーボルト(koboldまたはkobalt)が語源です。コーボルトは、民話に登場する伝説上の醜い妖精、精霊のことで、16世紀ごろのドイツでは、鉱物の冶金が困難なのはコーボルトが鉱石に魔法を仕掛けたせいだと考えられていたそうです。その鉱石が含んでいた元素にコバルトの名を与えたという説が有力です。

因みにコーボルトは、英語では「ゴブリン」と訳されることもあります。あの人気小説『ハリー・ポッター』に登場する魔法生物「ゴブリン(小鬼)」は、コーボルトをモデルとして考えられたキャラクターです。
 

コバルトは青のイメージだが、なぜ赤色になるのか

上で私は、赤はコバルトの色だと説明しましたが、みなさんの中には「何か変だな」と思われた方もいるでしょう。そう、「コバルトブルー」という言葉があるように、コバルトと言えば青ですよね。

確かに、ケイ酸コバルトを含むガラスはきれいな青色を呈します。ワインの青いボトル等にはたいていコバルトが入っています。アルミン酸コバルトを含む青色の顔料は、コバルトブルーと呼ばれ、油絵具や陶磁器の着色に用いられます。美しい浜辺を「白い砂浜とコバルトブルーの海」と評するように、コバルトには「青色」のイメージが強いですね。しかし、なぜ目薬中のコバルトは赤いのでしょうか。

実はその答えは、中学生が一番よく知っているかもしれません。

忘れてしまったかもしれませんが、中学校の理科で誰もが「塩化コバルト紙」という試験紙を習ったはずです。例えば、炭酸水素ナトリウムを加熱すると、水と二酸化炭素と炭酸ナトリウムに分解しますが、水が生成したことは塩化コバルト紙が赤色に変わることで確認されます。無水の塩化コバルトは青色ですが、水を吸収して水和物になると赤色を呈するため、水の存在を判定するのに利用されているのでしたね(思い出してください!)。

因みに、タンスなどの水分を吸収して乾燥させるために使われる乾燥剤シリカゲルにも塩化コバルトが混ぜてあり、使い始めは青色、水を吸収すると赤色に変わって使用期限を知らせてくれます。

つまり、コバルトは、いろいろな他の分子がくっつくと、その状態によって色調が変わる性質があるのです。シアノコバラミンの場合、コバルトにポルフィリン類似のコリン環とヌクレオチドとシアノ基が配位しているために、赤色に見えるというわけです。

次に薬局に行ったときに、赤い色の目薬を見かけたら、「ハリー・ポッターのゴブリンや乾燥剤シリカゲルと関係があるんだよな」などと思い出してもらえると、楽しいかもしれません。
 

ビタミンB12を含む市販の赤い目薬例

参考までに、薬局で売っている主な目薬で、液体が赤色をしているものをみてみましょう。
  • 新サンテドウα、サンテPC、サンテボーティエ、サンテドウプラスEアルファ、サンテメディカル12、サンテビオ(参天製薬)
  • ロートリセb、Vロートジュニア(ロート製薬)
  • ノアールワイド(佐藤製薬) など
これらは、みんなビタミンB12(シアノコバラミン)を含んでいます。眼精疲労の悩みで目薬を探している方は、これらの製品を試してみるのがよいでしょう。
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