知っているようで知らない「大麻取締法」という法律
大麻栽培の罪で無期懲役になることも…
多くの人が、この法律は「大麻を禁止し刑罰を与える法規」と理解しているかもしれませんが、実際には少々違います。法律の全文を読んでいただければ分かりますが、本法律の主眼は「大麻の用途を学術研究及び繊維・種子の採取だけに限定し、大麻の取扱いを免許制とする」ことです。そのために、取扱者の免許(第5条~)、大麻取扱者の義務(第13条~)、大麻取扱者に対する監督(第18条~)など、取り扱うためのルールが記されています。そして、「免許制」を徹底するために、無免許の大麻取扱いを禁止しているのです。
知っているようで知らない「大麻取締法」という法律について、何が禁止され、どういう刑罰が設けられているのかなどについて、わかりやすく解説します。
「大麻取締法」は何を禁止しているのか
では、どんなことが禁止事項としてあげられているか、法律の条文から抜粋してみてみましょう。【大麻取締法】
第一章 総則
(略)
第三条 大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。
2 この法律の規定により大麻を所持することができる者は、大麻をその所持する目的以外の目的に使用してはならない。
第四条 何人も次に掲げる行為をしてはならない。
一 大麻を輸入し、又は輸出すること(大麻研究者が、厚生労働大臣の許可を受けて、大麻を輸入し、又は輸出する場合を除く。)。
二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。
三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。
四 医事若しくは薬事又は自然科学に関する記事を掲載する医薬関係者等(医薬関係者又は自然科学に関する研究に従事する者をいう。以下この号において同じ。)向けの新聞又は雑誌により行う場合その他主として医薬関係者等を対象として行う場合のほか、大麻に関する広告を行うこと。
2 前項第一号の規定による大麻の輸入又は輸出の許可を受けようとする大麻研究者は、厚生労働省令で定めるところにより、その研究に従事する施設の所在地の都道府県知事を経由して厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない。
また、第六章には、これらの禁止事項に違反した場合の罰則が定められており、個人使用目的と営利目的で重さが異なっています。
営利目的で薬物犯罪が行われた場合は、それによって得られた資金が同じ犯罪に繰り返し利用されたり、別の新たな犯罪につながる可能性が高いですから、公益保護の観点から重い処罰が科せられるのは当然と言えるでしょう。
ただし、目的を特定するのは容易ではありません。犯罪組織が摘発されたり、取引に関する帳簿等が発見されれば、営利目的を裏付けることができますが、個人が薬物を輸入したときに転売を計画していたか単に自分が使用することを想定していたのかを区別することは困難です。ですから、一般的には量や範囲によって判断されることが多いです。例えば、とても個人で使用しきれないと思われるほどの大量の薬物を扱っていれば、営利目的が疑われることになるでしょう。
大麻草の無許可栽培の罪は? 最高刑はなんと無期懲役
「大麻取締法」から少し反れますが、大麻の取締りに関した法律としてもう一つ、「麻薬特例法」があります。正式名称は、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」で、1991(平成3)年に制定(4年7月施行)された法律です。法律の専門家でも知らない人が多いようで、ほとんどの方は「大麻は大麻取締法で規制されている」としか説明していませんが、大麻の取り締まりを強化するために、「麻薬特例法」は重要な位置づけにあります。
「麻薬特例法」という略称だけ聞くと、麻薬だけを対象にしているように誤解しがちですが、麻薬及び向精神薬・あへん及びけしがら・覚醒剤・大麻のすべてをカバーしています。大麻に関しては、「許可なく営利目的での輸入・輸出・栽培・譲渡・譲受」が禁止され、違反者に対しては「無期又は5年以上の懲役及び1千万円以下の罰金」という刑罰が定められています。同じ薬物犯罪に対する罰則が別の法律で重複して定められている場合、重い方が適用されることになっているので、現在では麻薬特例法のこの規定が優先されます。気軽な気持ちで大麻草の栽培を行っただけでも、規模によっては「営利目的」と判断され、「無期懲役」になることもあるのです。
大麻草の栽培に重い罰則が定められている理由
上述したように、許可なく大麻草を栽培することに対しては、大麻に関する犯罪の中で、最も重い刑罰が定められているのです。また、営利目的の場合の「無期懲役」は、ヘロインや覚醒剤と同じ扱いで、薬物犯罪の国内最高刑です。「植物を育てることがそんなに悪いのか」と思う人も少なくないでしょう。
麻薬や覚醒剤など、他の薬物に関する法律では「製造」が禁止されていますが、大麻取締法には「製造」という言葉は見あたりません。そもそも「製造」とは「原料に手を加えて製品にすること」を意味し、工業におけるプロセスを指すことが多いです。一方「栽培」とは「植物を植えて育てること」を意味し、農業におけるプロセスを指すことが多いです。マリファナは、大麻草の葉や花穂を加工して「製造」されるものですが、とくに加工せずに生の大麻を煙草のように燃やして吸われる場合もあります。また、成熟した大麻草がなければマリファナ利用は不可能です。したがって、製造を禁止するよりも、栽培を禁止する方が合理的と考えられたのでしょう。いずれにしても、大麻草の「栽培」は、麻薬や覚醒剤の「製造」に相当すると認識すべきです。
また、大麻取締法は、農業と密接に関係した法律であることも忘れてはなりません。
大麻取締法が制定された当時は、マリファナの製造を目的として大麻草を栽培する者は少なかったと思われます。国際的な流れから大麻を取り締まる法整備が必要になったものの、当時の日本の状況では、大麻を薬物として取り締まるというより、農作物としての大麻栽培を守るという視点が大きかったと想像されます。無許可の栽培は、許可を得た農作物の栽培を妨げるものとして、厳しく取り締まりたかったのかもしれません。
なお、2023年12月6日に、現在の大麻取締法を改正する法案が国会(参議院本会議)で可決・成立しました。これにより、近いうちに「大麻取締法」は、「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年7月10日法律第124号)に変わり、「大麻」の定義が「大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)」となります。また、あわせて「麻薬及び向精神薬取締法」も改正され、その第二条第一項で「別表第一に掲げる物及び大麻」を「麻薬」と定めることになりました。つまり、大麻取締法は「大麻草の栽培を厳しく規制する」ことに主眼を置いた改正が行われ、薬物については「麻薬」というカテゴリーに含めて規制するように変えたわけです。
具体的には、新しくできる「大麻草の栽培の規制に関する法律」の中には、
第二十四条 大麻草をみだりに栽培した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯したときは、当該罪を犯した者は一年以上の有期懲役に処し、又は情状により一年以上の有期懲役及び五百万円以下の罰金に処する。
という罰則が設けられます。必ず「一年以上」の懲役に処されるわけですから、明らかに現在の大麻取締法よりも厳しい刑罰です。加えて、「麻薬特例法」では、営利目的での大麻草の不正栽培に対する「無期懲役」という罰則は変更されませんから、大麻草の栽培は今後もより厳しく規制されるこことを申し添えておきます。
大麻の法的規制について理解を深めたい方は、私の著書『大麻大全』(武蔵野大学出版会)を是非お読みください。