女の子はピンクよね
近所に住む義母と「バトルが止まらない」というのはミカコさん(40歳)だ。「そもそも結婚したのは私が35歳のとき。夫は5歳年下なんです。でも夫は、私以外考えられない。誰が何と言っても結婚する。僕はもう大人なんだからと言って、ふたりで婚姻届を出したんです。その帰りに義父母に報告。義父は『こんなヤツでいいんですか』と笑いながら私を気遣ってくれましたが、義母は苦虫をかみつぶしたような表情でした」
たまたま夫が実家近くにすでにマンションを買っていたこともあり、ミカコさんはその部屋に越してきた。
「3LDKの広いマンションです。義父がそこのオーナーと知り合いだったため、息子である夫に買わせたらしい。実家が近いのが気にはなったけど、ローンも高くないし、共働きだからやはり夫の実家にはそれなりにお世話になったほうがいいし、と軽く考えていました」
夫は、母親に鍵も渡していなかったから、急に入ってくるということはなかった。たまに「おいしいものをもらったから届ける」という電話が来ても夫は断っていた。
「新婚家庭を邪魔しないでよとはっきり言っていましたね。だから私も安心して暮らしていたんです。だけど義母はずっと我慢していたものがあったんでしょう。私が妊娠して、産休に入ってから急にやたらと世話を焼きたがるようになりました。私の世話を焼きたいのではなく、本当は息子と一緒にいたいだけなんでしょうけど」
ある日、産まれてくる赤ちゃんのための買い物に行くと義母が言い出した。私が買うんだから一緒に来なさいと高圧的だったという。
「しかたなく行くと、あれこれ買い物をするんですが、もうすでに用意してあるものばかり。だから『これはいりません』とはっきり言いました。すると『何色を用意しているの?』と。きれいなブルーですと答えたら、『あなた、女の子を産むんでしょ。女の子はピンクよ』って。今どき、そこまでベタなことを言う人も珍しいので、つい笑っちゃったんですよ。そうしたら義母が激怒。私を突き飛ばしたんです。危うく転倒するところでした。床に手をついて助かったんですが、お店の人がびっくりして救急車を呼んじゃった」
断ったが念のためにと言われ、ミカコさんも不安が募って病院へ行った。夫もかけつけてきて大騒ぎとなってしまったのだという。
それでもめげない義母
ふつう、こんなことがあれば深く謝罪して、今後は気をつけると反省するはずなのに、義母は「ミカコさんが勝手に転んだのよ」と言い張った。だが目撃者もいる。「大騒ぎになるのも嫌だったので、夫にはもういいからと言いました。これで義母が肩身を狭くしたらかわいそうだとも思ったんです。だけど義母はそういう人じゃなかった」
ミカコさんは苦笑した。子どもが産まれるとすぐに病院にやってきて、「私が真っ先に抱くのよ」と言い張った。病院の看護師から「お母さんが先ですよ」と諭されていたそうだ。
その後、夫がやってきたため、当然夫も抱いた。そして夫は赤ちゃんを看護師に渡したのだ。
「赤ちゃんも疲れているだろうから寝かせてやってください。妻もです」
そう言って、夫は「私も抱きたい」と叫ぶ義母を連れて行った。
「夫、グッジョブ、ですよね。ちっとも反省していない義母に呆れた私たちは、その後、マンションを売って私の実家近くに越してきました。義母が来たがると、夫は『ミカコを突き飛ばしたことを忘れたのか』と制御してくれています」
今は3歳になった娘を保育園に預け、忙しいながらも充実した日々を送っている。どうしても困ったときは実母に頼るしかないのだが、実母はひどく心配性なので、あまり関わらないようにしているという。
「義母は自己主張が強すぎ、実母は心配しすぎる。どちらも孫がかわいい気持ちは一緒なんでしょうけどね。義母には参ったなと思っていますが、もう少し子どもが大きくなったら会わせるつもりです。夫は反対していますが、義母もかわいそうだなと最近、思うようになったんです」
恨み辛みを抱えていても、誰も幸せにはなれない。だったら快適な距離を保ってつきあっていくようにすればいいのではないか。ミカコさんは夫にもそう言って説得している。
「夫のほうが自分の母親への嫌悪感が強いようで……。お義母さんも寂しいんだよ、少し考えていこうと話しています」
穏やかに、寛容に。子どもが産まれてから、そんなふうに考えるようになったというミカコさんは懐の深い、素敵な笑顔を見せた。