高校受験

教科書改訂で激ムズ化の結果「中1英語力」に格差の危機!原因は「小学英語」の指導方針にあり!?

「2021年4月から激ムズに!」と話題になった中学英語。実際のところ、つまずく子が多発し英語が苦手な子が増えた一方で、難しくなっても高得点を連発する得意な子も増えているとか。中学英語のつまずきの原因とそれを克服する方法について紹介します。

伊藤 敏雄

執筆者:伊藤 敏雄

学習・受験ガイド

「中1の1学期」の時点で英語ができる子とできない子に“二極化”

2021年度から中学校の教科書が新しくなり、これまで以上に難しくなった「中学英語」。例年なら、中1の最初の英語テストでは簡単な問題のみが出題され、平均点が80点台という学校が多々ありました。ところが、昨年は多くの中学校である異変が見られました。それは中1の最初の英語テストの平均点が60点くらいしかなく、かなり難しくなったことです。
 
例年なら多くの中学校では、最初の英語テスト(1学期中間)の点数は次のような分布になります。これを従来型分布とするなら、80点台が最も多く、次いで90点台、70点台と続き、それ未満は極端に少なくなるのが通例でした。
これまで(2020年度まで)の中1英語の得点の分布【従来型】

これまで(2020年度まで)の中1英語の得点の分布【従来型】

ところが昨年のある中学校では、1学期の最初のテストの点数が次のような分布となりました。平均点が60点台と例年より極端に低く、それでいて90点台が最も多く、次いで70点台、80点台、50点台と続いたのです。
昨年(2021年度)から見られる中1の英語の得点の分布(1学期)

昨年(2021年度)から見られる中1の英語の得点の分布(1学期)

新たなパターンでは、中1の1学期の時点で60点も取れない子が4割近くいます。一方で80点以上取れる子も4割近くいることから、すでに“二極化”が起きていることが分かります。
 

中1の2学期以降、典型的な「ふたこぶ分布」へ

さらに、2学期のテストの分布を調べてみたところ、平均点は50点台と10点以上の低下が見られ、分布も次のようなほぼフラットな形へと変わりました。80点以上、60~79点、30~59点、30点未満とでほぼ4分割される結果となったのです。
昨年(2021年度)から見られる中1の英語の得点の分布(2学期)

昨年(2021年度)から見られる中1の英語の得点の分布(2学期)

そして3学期になると、平均点は50点台前半まで低下し、しかも分布はさらに変化しました。70点台と10点台に大きな山が見られる、典型的な「ふたこぶ分布」になったのです。さらに詳しく見てみると、90点台にも大きな山が見られることから、ひょっとしたら“三極化”が起こっているのかも知れません。いずれにしても、中1の時点ですでに英語で20点もとれない子が「約5人に1人」もいるのですから衝撃です。

昨年(2021年度)から見られる中1の英語の得点の分布(3学期)

昨年(2021年度)から見られる中1の英語の得点の分布(3学期)

最後に、1年間の推移をまとめたのが次のグラフです。20点ずつ5つの階層に分け、1年間の得点分布の推移を表したものです。1学期には4割近くいた層(濃い青線)が3学期までにほぼ半減し、逆に20点未満の層(赤い線)が増え続けて、約20%にまで増えているのです。つまり、全体的に10~20点ずつ点数が落ちているのです。
中1の英語、階層別の得点の推移

中1の英語、階層別の得点の推移

もちろん、テストの難易度が異なるため一概に決めつけることはできません。しかし、分布の推移を調べてみると、平均点だけではわからない中1の英語力の推移がよくわかります。しかも、たった1年の間にこれだけ変動があることがわかったのは、まさに驚愕の事実といえます。
 

中1の英語でつまずく原因は「小学英語」にある

さて、このような二極化が起こる一番の原因は、小学校で英語が「教科化」されたことによりすでに二極化が起こっているためだと考えます。そんな身も蓋もないことを言わないで欲しい、と思われる方もいるかもしれませんが、事実、起きているのです。
 
というのも、2020年度から小学校でも教科となった英語は、疑問文や否定文、be動詞と一般動詞、現在形と過去形と、従来中学で学んでいた文法事項の多くを学びます。中には、whereなどの疑問詞を使った疑問文も含まれています。
 
しかも、小学英語では基本的な単語や英文の読み書きはせず、音声を中心に“耳と口で覚える英語”が中心となっています。確かに、英語が好きな子や得意な子は、数回、単語やフレーズに触れただけで覚えられるでしょう。しかし、このような学習があまり得意ではない子は、単語もフレーズもなかなか覚えられません。この時点ですでに英会話教室や学習塾で英語を学んでいる層と、そうでない層の違いがあらわになっていると考えられます。
 

つまずきの根本原因は単語や英文の「読み書き」

小学英語も中学英語も、つまずきの根本的な原因は、単語や英文の読み書きができないことにあります。いくら英語に慣れ親しむことが重要だと言われても、小学校での英語の授業はせいぜい週2回しかありません。英語を習得するためには、十分な授業時間とはいえないのです。
 
単語や英文が読めるとそれだけ使える語彙やフレーズが増えることにつながります。授業だけでは理解できなかったことも、教科書を読めれば復習することも可能です。ところが、小学英語はそのような方針で進められていないため、英語の読み書きができないまま、いわば耳コピだけで英語を習得しなければなりません。
 
もともと英語が好きな子や英会話教室や学習塾に通っている子にとっては、そのような方針もあまり問題にはならないでしょう。しかしそうでない子にとっては、英語を習得する障壁になっている可能性は否定できません。

つまり、「英語の読み書きをさせず、慣れ親しむだけ」という方針が返って仇となっているのです。
 

小学英語では、なぜ「読み」「書き」を教えないのか?

小学英語では「受容語彙」と「発信語彙」という設定があります。「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編」によると、小学校では受容語彙も発信語彙も「聞く」「話す」が中心となり、中学校で繰り返し活用することで「話す」「書く」段階まで指導するとされています。
 
■受容語彙=「聞く」「読む」を通して意味が理解できる
■発信語彙=「話す」「書く」を通して表現できる
 
そうなると、ここで一つの疑問がわいてきます。「書き」は中学校で習うとしても、「読み」はどのような扱いなのかということです。そこで、もう少し学習指導要領解説を調べてみたところ、「読み」に関しては「絵本など(中略)言語外情報を伴って示された語句や表現を推測して読むようにする」「中学校で発音と綴りとを関連付けて指導することに留意し、小学校では音声と文字とを関連付ける指導に留めることに留意する必要がある」という記述を見つけました。
 
どうやらこれは、whereと書かれていても「ぅえアー」と読める必要はなく、絵などを参考に「どこ」という表現は「ぅえアー」と言えれば(話せれば)それでよいということのようです。
 
学習指導要領のこの記述を塾関係者の間で話題として取りあげたところ、「それじゃあ、英語ができるようにはならないよね」という結論で一致しました。
 
小学英語で読みや書きまで指導しないという方針が、読み書きできなくてもよい→反復練習しない→頭に残らない→できるようにならない、という負のスパイラルに陥ることを、塾関係者が予見しているからです。
 

英語のつまずき解消のポイントは読み書きにあり

それでは英語のつまずきを解消する、あるいは英語でつまずかないためにはどうしたらよいのでしょうか。
 
その前に、さきほど発信語彙は書けなくてもよいと言いましたが、これは覚えなくてもよいというわけではありません。ややこしい感じがしますが、小学英語では「読み書きできなければいけない」というルールは存在しませんが、だからといって単語を「覚えなくてもよい」というルールも存在しないのです。
 
これをwhere(ぅえアー)を使って説明すると、「ぅえアー」と聞いて→whereと書ける、という必要はありませんが、whereを見て→「ぅえアー」と発音することがわかる、「どこに」と意味がわかる、という必要はあるのです。
 
このようにwhereやwhenが出てきたときに、「どこ」や「いつ」とわからないようでは、英語を話すこともできませんし、ましてや読んだり書いたりすることにもつながりません。つまり、whereという単語が書けないとしても、発音や意味を覚えなければいずれ困ることになるのです。
 
小学英語ではこの点に関する認識があいまいなため、その結果、「読み」に関する指導があやふやになっているのです。これが「聞く」や「話す」だけでは英語の習得がままならない子ほどつまずきとなってしまう大きな要因です。
 

英語は正しいインプット、正しいアウトプットで覚えられる

最後に、英語のつまずきを解消する、あるいは英語でつまずかない方法を紹介しましょう。正しいインプットとは、例えば、animal(動物)という単語なら、「a=ェア」「ni=ニ」「ma=マ」「l=る」とつづりと読みを対応させて覚えるようにすることです。
 
また、正しいアウトプットとは、何も見ずにanimalとつづりを書く練習をすることです。といっても、ノートにanimalと必ずしも書き取りする必要はなく、指で空書きするだけでかまいません。

ただし、「ェア」と発音しながらa、「ニ」と発音しながらniと、指でつづるようにします。こうすることで、読みとつづりの関係が次第にわかるようになるからです。

 
■参考
・小学校学習指導要領(平成29年告示)解説「外国語活動・外国語編」(文部科学省)

■関連記事
2021年4月から中学英語が激ムズに! 教科書改訂で英単語数2500語と2倍、英語嫌いも倍増?
フォニックスって?英語の読み書き・覚え方のルール
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます