食生活・栄養知識

ザクロの健康効果・栄養を壊さない食べ方・生薬としては毒性も

【薬学博士・大学教授が解説】秋に旬を迎えるザクロは、ビタミンCが豊富で、アントシアニンなどのポリフェノール類も含まれる、体にもいい果実です。一方で生薬としては毒性が強く、「石榴皮」「石榴根皮」などの薬は現在は使われていません。ザクロの栄養、効果、栄養を失わない食べ方のコツと注意点をご紹介します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

秋に旬の季節を迎えるザクロ……色合いも味わいも楽しめる果実

ザクロの食べ方・栄養・効果

ビタミンC豊富でポリフェノールなども含むザクロ。以前は生薬としても使われていました

秋が深まる頃、十分に熟すと厚みのある茶褐色の果皮がひび割れるように裂け始め、その中に赤く美しい宝石のような小さな粒状の実をたくさんつける樹木があります。そう、「ザクロ」ですね。

あまり馴染みがないという方もいらっしゃるかもしれないので念のため説明しておくと、食べられるのは、赤い粒の部分だけです。外側の果皮には毒成分が含まれていて、吐き気やめまい、下痢などを起こすことがあるので、食べないようにしましょう。

赤い粒の部分をかじると、プチプチとした食感と甘酸っぱい味わいが楽しめます。美しい色合いが他の料理を引き立てることから、お肉に添えるソースや副菜のトッピングとしても取り入れやすいですし、ミキサーにかけてザクロジュースにして飲んでいるという方もいらっしゃるでしょう。
 

ザクロの由来……原産はペルシャ地方から北インド。中国から日本へ

ザクロは、ミソハギ科ザクロ属の落葉高木で、学名をPunica granatumといいます。原産地は、ペルシャ地方から北インドとされ、イエメンのソコトラ島には今もザクロの原種(学名:Punica protopunica)の木が残っているそうです。

ヨーロッパではスペインのグラナダ(Grenade)地方の特産の果実とされていたことから、フランス語でリンゴを意味するpommeとGrenadeを組み合せて“PommeGrenade”と名付けられ、それが変化して現在の英名pomegranateになりました。中国では、安石国(ペルシャ地方に相当)でとれる瘤(こぶ)のような果物という意味で、「安石瘤」と呼ばれるようになり、それが変化して「石榴」という字で表されるようになりました。そして、これが日本に伝来したとき、中国語の「ジャクリュウ」という読みが訛り、「ザクロ」と呼ばれるようになったと言われています。また、原産地名である「ザクロス」あるいは「ザグロス山脈」から、「ザクロ」と呼ばれるようになったという説もあります。
 

ザクロの栄養・効果・栄養を失わない食べ方のコツ

栄養面から見たザクロの特徴の一つは、ビタミンCを豊富に含んでいることです。100gあたり、10mgのビタミンCを含みます。

ビタミンCは、体の骨組みとなるタンパク質のコラーゲンをつくるのに必要な栄養素です(コラーゲンとビタミンCの関係を詳しく知りたい方は、「コラーゲン配合化粧品や食品・飲料の効果は?科学的に解説」をあわせてお読みください)ので、肉や魚などの良質なタンパク質と一緒にザクロを食べれば、骨や皮膚の健康を保つのに役立つと期待されます。また、ビタミンCには鉄分の吸収を高める効果があるので、鉄分を多く含む肉や魚、ホウレンソウなどとザクロを組み合わせて食べれば、貧血予防に役立つと期待されます。

なお、ビタミンCは水に溶けやすいですから、ザクロをゆでたり、長時間水で洗ったりするとビタミンCが失われてしまいます。サラダなどに用いるために水で洗うときはできるだけ手短にさっと行うことをお勧めします。ジュースやソースにするときは、生のままミキサーにかけるのがよいでしょう。

さらに、他の植物の花や果実と同じように、ザクロにも、アントシアニンなどのポリフェノール類が含まれています。ポリフェノール類には、抗酸化作用があり、老化や免疫力の低下につながる「活性酸素」の悪影響を抑制すると期待されます。
 

生薬としてのザクロ「石榴皮」「石榴根皮」

ザクロは生薬としても知られ、乾燥させた果皮または樹皮は「石榴皮」(セキリュウヒ)、根の皮は「石榴根皮」(セキリュウコンピ)と呼ばれ、かつては条虫という寄生虫の駆除に用いられていました。

日本で用いられる医薬品の性質などを記した公定書の「日本薬局方」にも、「石榴根皮」が初版から第7改正まで収載されていました。しかし、上述したように皮の部分には毒成分が含まれているので、皮を含む生薬は毒性が強く、現在はあまり使われていません。
 

ザクロの成分研究から生まれた合成医薬も

プソイドペレチエリン,グラナタン,ザクロ

プソイドペレチエリンの化学構造。網掛けした部分がグラナタン骨格に相当する。

最後に、ザクロそのものではありませんが、ザクロの成分研究から派生して開発された合成医薬品があるので、紹介しておきましょう。

少し専門的になりますが、石榴皮には、ペレチエリン、イソペレチエリン、プソイドペレチエリンなどのアルカロイドが含まれていますが、このうちプソイドペレチエリンには特徴的な環状アミン構造がみられます。やや専門的になりますが、右図に示したように、6員環のピペリジンにN-メチル基と炭素原子3個からなる架橋が付いた環状アミンで、この骨格は、ザクロの種小名granatumに因んで、「グラナタン(granatane)」と名付けられました。

まるで「歩掛け船」のような面白い形をした構造なので、この骨格に他の化学構造を加えた色々な誘導体が化学合成されました。それらのうち、今でも日本の医薬品として用いられているものが2つあります。

「マザチコール」は、1970年代に田辺製薬で作られたグラナタン誘導体で、パーキンソン症候群の治療薬として用いられています。

「グラニセトロン」は、1980年代にイギリスのスミスクライン・ビーチャム社で作られたグラナタン誘導体で、抗がん剤投与に伴う吐き気を抑えることのできる薬として用いられています。「グラニ~」という名前の響きから、ザクロに由来した薬であることがうかがえます。

ザクロには、まだまだ秘められた力があるかもしれません。今後の研究に期待しましょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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