食生活・栄養知識

コラーゲン配合化粧品や食品・飲料の効果は?科学的に解説

【薬学博士・大学教授が解説】コラーゲン注入やコラーゲン配合化粧品で、たるみやしわは消せるでしょうか? 美容効果や健康効果を信じている方も多いコラーゲンですが、残念ながら科学的根拠はありません。努力が逆効果になってしまうこともあります。コラーゲン注入や飲むコラーゲン、食べ物からの摂取で知っておきたいことをわかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

美容と健康にコラーゲンは欠かせない…それって本当?

コラーゲンのしわ取り効果は?

コラーゲン注射やコラーゲン食品を試しているけどシワが消えない…。実際の効果は?

コラーゲンが大好きな方が世の中にはたくさんいます。「美容にも健康にもコラーゲンが大切」と信じて疑わず、コラーゲン関係の化粧品や健康食品を愛用している人も少なくないかもしれません。

「皮膚のたるみやしわの原因は、加齢により皮膚のコラーゲンが減少すること」という考えに基づいて、主に美容分野で「コラーゲンを補う」ための様々な方法が考案されてきました。しかし残念ながら、そのほとんどが科学的な信ぴょう性がないことも事実です。

コラーゲンという成分の性質の基本について、わかりやすく解説します。コラーゲン注射やコラーゲン配合の化粧品、飲むコラーゲンや食品の効果について考えてみましょう。
 

コラーゲン注入の効果は? 皮膚のシワが増えて逆効果になることも

たとえば「コラーゲン注入」。コラーゲンの低下によって弾力を失った肌を取り戻すために、コラーゲンを充填した注射器の針を皮膚の下に刺し入れ、コラーゲンを直接注入しようというアイデアです。しかし、この方法には問題がありました。
 
まず、前記事「コラーゲンに美肌効果はない?私がサプリをおすすめしない理由」で解説したように、生体内に存在するコラーゲン分子は三重らせん構造の強靭な線維性タンパク質ですので、中性の水には溶けません。ですから、注射器に充填して簡単に注入できるような物質ではないはずですが、現在日本で医療用のコラーゲンとして認可・使用されている製品は、注射して使えるように加工されたもののようです。詳細はそれぞれ企業秘密として公開されていませんが、コラーゲンは酸性条件下で水溶性が増すので、酸性溶液として供給されている可能性があります。体内に注入された後は、中性条件下でゲル化して、皮膚の下に留まるものと思われます。
 
また、コラーゲン分子の両末端には、らせん構造がほどけた「テロペプチド」(teloは「末端、終わり」を意味する)と呼ばれる部分があり、これがアレルギーなどの原因となる抗原性を有しているため、このテロペプチド部分を酵素処理によって除去したものとして、「アテロコラーゲン」(a-は「無い」を意味し、ateloで「末端が欠けている」という意味)が開発・製品化されました。

アテロコラーゲンは、生体内のコラーゲンと同じ三重らせん構造を保持しているので、皮膚に注入すれば同じように機能すると説明されていますが、実際にはそうはいかないと思われます。なぜなら、酵素処理によって除去されたテロペプチドは、コラーゲン分子同士が互いに結合して架橋を形成するのに必要な部分でもあるので、それを除去してしまったアテロコラーゲンを皮膚の下に注入しても、既存のコラーゲン線維と架橋を形成することで定着し、コラーゲン線維を補強するといった効果を期待するのは難しいでしょう。

事実、アテロコラーゲンを皮膚の下に注入すると、一時的に皮膚が膨んで、たるみやしわが減ったように見えるかもしれません。しかし、間もなく生体内の分解酵素の作用を受けて徐々にバラバラに分解されたり吸収されるため、3~6ヶ月くらいで、元のしわが現れてきます。効果を持続するためには、3カ月ごとに注入を繰り返す必要があります。

さらに懸念されることは、注入するたびに皮膚が伸び、たるみやしわがかえって増えるリスクがあることです。たとえるなら、「伸びて戻らなくなったズボンのゴム」のようになってしまうのです。あまり賢明な方法とは言えませんね。
 

コラーゲン配合化粧品の効果は? 肌に塗って期待するのはナンセンス

コラーゲンを注入するには、通院して皮膚に針を刺さなければなりませんし、あまり効果が期待できないとなると、もっと手軽な方法はないかと思いますよね。そうして出てきた次のアイデアが、コラーゲンを皮膚の外に塗って補うということでした。そのために、「コラーゲン配合」の化粧品やクリームが次々と発売されました。
 
多くの消費者の方がこれらを愛用されているかもしれませんが、科学的な結論から言うと、「残念ながら効果は全くない」と考えた方がいいでしょう。「皮膚に塗ったコラーゲンは、皮膚に浸透していく」と思われているかもしれませんが、大きな三重らせん構造の強靭なコラーゲン分子が皮膚を通り抜けるわけがありません。そもそも私たちの皮膚は、外から余計なものが入らないよう「鎧」のような構造をしているのです。小さな分子でもそう簡単には通さないのが私たちの皮膚です。
 
そうした指摘を意識してか、「皮膚に浸透しやすいように分解・低分子化したコラーゲンを使用しています」といった特長をアピールした製品も多々目にしますが、分解されて小さくなったものはもはやコラーゲンではありません。万が一皮膚を通り抜けたとしても、生体内にあるコラーゲン線維に組み込まれて定着することはないのです。
 
しかし、そうした化粧品やクリームを使用した時に「何となくしっとりする」「実際にプルプルになって張りが出た」という実感をお持ちの方もいるかもしれません。残念ながらそれは、まったく浸透しなかったコラーゲン、もしくはコラーゲンの分解物が皮膚の表面に残っているだけです。実際のところ、もっと安価なクリームを塗るのと、実感として大きな違いはないのではないでしょうか。
 
厚生労働省の健康情報サイト『e-ヘルスネット』(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-011.html)では、コラーゲンについてこう説明しています。

「皮膚に塗布する場合は、おもに保湿剤として機能することになります。」
 

コラーゲン飲料の効果は? 水に溶けない成分入りの飲み物という謎 

次に登場したのが、いわゆる「飲むコラーゲン」です。体内で不足したものを補うために、飲食によって体に取り入れるというのは、自然な発想に思えますし、方法も手軽ですから、多くの消費者が関心を示しました。しかしこれも「効果はなかった」と考えた方がいいでしょう。「飲むコラーゲン」には、大きな問題が2つありました。
 
第一に、透明な飲料として提供されているということは、成分がすべて水に溶けているわけですが、そもそもコラーゲン分子は中性の水には溶けません。つまり、飲料に溶け込んでいるのは、コラーゲンではないということです。こうした指摘に対抗するようにメーカーは「水に溶けやすい形にしたコラーゲン」とか「低分子化したコラーゲン」などと説明していますが、もし本当にそうなら、それはもはやコラーゲンではありませんから、「コラーゲン入り飲料」と称するのは、正確とはいえません。
 
第二に、コラーゲンを飲んでも、不足したコラーゲンを補うことはほとんど不可能、もしくは万が一補うことができたとしても非常に効率が悪いということです。これは、コラーゲンを食べた場合も同じです。そこで、「コラーゲンを食べて体内にコラーゲンを補う」という考えの問題点を次いで洗い出しましょう。
 

体内のコラーゲンを増やす方法は? 実は「コラーゲンを食べないこと」

「体内に不足したものを補うために、食事として摂取する」というのは、とても理にかなった考えのように思えますが、これはコラーゲンの場合には当てはまりません。

コラーゲンはタンパク質の一種ですから、食事として食べた場合には、胃や腸で分泌される消化酵素の働きによって、バラバラのアミノ酸に分解されてから、体内に吸収されます。吸収されたアミノ酸は、再び体内でタンパク質をつくるための原料として役立ちます。コラーゲンが分解されてできたアミノ酸の一部が、再び体内でコラーゲンを作り出すために利用されることは十分あり得ますが、非常に効率が悪いです。なぜなら、コラーゲンは、アミノ酸組成が特殊なたんぱく質だからです。

コラーゲンに美肌効果はない?私がサプリをおすすめしない理由」で詳しく解説したように、コラーゲンは、アミノ酸組成が非常に偏っており、非必須アミノ酸のグリシンが3分の1を占めているうえ、リシンとプロリンが水酸化された「ヒドロキシリシン」と「ヒドロキシプロシン」という異型のアミノ酸を含んでいます。これが分解されると、グリシン、ヒドロキシリシン、ヒドロキシプロリンなどが生じ、グリシンは通常通りタンパク質合成に再利用されますが、ヒドロキシリシンとヒドロキシプロリンは異型なので、新しいタンパク質を合成するのには使えません。つまり、コラーゲンを食べただけでは、体内で新しいコラーゲンを作り出す材料が足りなくなってしまうのです。

おまけに、アミノ酸組成が偏ったコラーゲンばかり食べていると、体作りに必要な他のタンパク質を合成する材料としてのアミノ酸も足らなくなります。コラーゲンは、栄養価が低く、積極的に食べなければならないようなものではないのです。食物繊維と同じように、栄養にはならず、むしろダイエット(食事制限)に使えるものだと理解しておくべきです。
 

コラーゲンを作りたいなら、肉や魚の良質なタンパク質とビタミンCを摂る

生体内でコラーゲンが作られるときには、グリシン、リシン、プロリンなどが繋ぎ合わされた一本のペプチド鎖が出来上がった後に、ビタミンCの助けを借りて、リシンとプロリンの水酸化が進行します。そして、ヒドロキシリシンとヒドロキシプロリンの働きで、強固な三重らせん構造が形成されます。

したがって、体内に不足したコラーゲンを増やしたければ、グリシン、プロリン、リシンを豊富に含むタンパク質の食材を利用することです。必須アミノ酸のリシンを比較多く含む食材は、アジ、サケ、牛ひき肉、鳥ひき肉、チーズ、卵などです。また、リシンとプロリンの水酸化を促すために、ビタミンCを豊富に含む野菜や果物を合わせて食べるとよいでしょう。

バランスのいいアミノ酸組成のタンパク質とビタミンCを積極的に食べることは、コラーゲンの生合成に役立つだけでなく、他の生体内タンパク質を補うことにもつながるというメリットがあります。
 

それでもコラーゲンを摂りたい人に……お守り的な役割も

「コラーゲンを注入する」「体内のコラーゲンを増やすために、コラーゲンを食べる」といった考えが、実は科学的に考えるとナンセンスであることがお分かりいただけたでしょうか? それでもコラーゲンの効果は信じたいという方もいるかもしれません。

これから、コラーゲンとどう向き合っていくかは、みなさんにお任せします。コラーゲン入りの化粧品やサプリメントは引き続き使いたいという方は、それもよいでしょう。私は止めません。なぜなら、「心の拠り所」としての効果は残っているかもしれないからです。

高校や大学の受験に臨む子どもに、お守りを持たせる親御さんは多いと思います。私自身もそうしました。しかしそれは、お守りに「子供の頭脳を明晰にして、テストで高得点をとれるようにしてくれる効果がある」からではありませんね。お守りが心の拠り所となって、受験に臨む子どもたちの心の支えになるかもしれないと思うからです。

真面目に科学的に議論すると、「コラーゲンを食べることにはまったく意味がない」という結論になってしまいます。しかし、「何かに頼っていると安心」「よさそうな製品を選ぶと気分が上がる」という方にとっては、コラーゲンが実際に「お守り」のような役割を果たしてくれるかもしれません。その場合はあえて否定せずに、頼ってもよいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます