脳科学・脳の健康

なぜ人間は笑うのか? 脳科学的に見る3種類の笑いと効能

【脳科学者が解説】「笑う門には福来る」ということわざがあるように、笑うことは古くからよいこととされ、健康維持にも効果的という考えもあります。ところで、私たちはどうして「笑う」のでしょうか。サルやネコなど人間以外の動物も笑うことがありますが、人間にしかない笑いの感情もあります。3種類に分けられる笑いとその効果について、脳科学的に解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

笑う門には福来る! 「笑い」の効能と種類

 
笑いとは何か…脳科学的に解説

笑うことの効能とは?

「笑う門には福来る」ということわざがあるように、一般に「笑う」のはいいことと考えられています。心の底から笑えるためには、心身共に健康で幸せでなければなりませんから、笑いは健康のバロメーターと言えるかもしれませんし、逆に笑うことが健康維持に役立つという考えもあります。

ところで、私たちはどうして「笑う」のでしょうか。笑うのがいいことだと納得するためにも、その理由を一緒に考えてみましょう。

実は、笑いには3種類あります。それぞれの「笑い」にどんな意味があるのかを、脳科学的に解説しましょう。
 

第一の笑い:リラックス状態の穏やかな笑い(smile)

第一の笑いは、嬉しいことがあったときに顔の表情が思わず緩む、いわゆる微笑み(英語ではsmile)です。まだ目も見えず言葉も理解できない生まれたばかりの赤ちゃんがニヤリと笑う表情を示すことがあります。大人でも、おいしい物を食べたり、好きな人に会うと、思わず顔がほころぶことがあるでしょう。こうした微笑みは、体が緊張した状態からリラックスした状態へと切り替わるために起きます。

この第一の笑いは、視床下部(詳しくは「視床下部の役割は?自律神経系、内分泌系を調節する重要な機能」「食欲・満腹感の正体は?脳科学的に成功しやすいダイエット法」をお読みください)が関係している食欲、睡眠、性欲などの本能的欲求が満たされたときに沸き起こる満足感が基本になっています。もともと内面的に発生する欲求が体の緊張状態を生み出しており、それが満たされたときにリラックス状態へと切り替わるので、穏やかな笑いとして表現されます。
 

第二の笑い:緊張から安心に切り替わったときの笑い(laughter)

第二の笑いは、何かおかしなことを見たり聞いたとき大きな笑い声をあげるもの(英語ではlaughter)です。何をおかしく感じるかは、人それぞれ違うかもしれませんが、すべてを突き詰めると、結局は緊張状態からリラックス状態への切り替えが笑いを生み出します。

だいぶ前の話になりますが、みのもんたさんが司会をされていたテレビのクイズ番組で、みのさんが「ファイナル・アンサー?」と言ってジーっと解答者の顔を見つめていると、そのうち笑いが巻き起こりました。じっと見つめられているうちは緊張していますが、我慢しきれなくなって緊張が解けた瞬間に笑いが起こるのです。変な顔や行動、妙な抑揚の言葉でも笑いが起こります。これは、非日常的なことを体験したことによる驚きと、それを自分が許容できるという共感・安心感から生まれる笑いです。

宴会で女装をして笑いをとろうとする男性陣がたまにいますが、私個人的には、そういう芸は邪道だと勝手に思っているので、あまり笑えません。驚きはしますが、それに共感できないからです。もうひとつ例をあげると、バナナの皮を誤って踏み転んでしまった人を見たとします。たいしたケガもなければ笑い話になりますが、もし転んだ人が頭を強く打って命をおとしたとすれば笑えません。つまり、安心・リラックスできたときにはじめて笑いが起きるのです。はじめは受けなかったギャグでも、何回も何回も言っているうちに笑いを誘うようになるのは、繰り返しによって共感・安心感が生まれるからです。

この第二の笑いは、扁桃体や海馬を含む大脳辺縁系(詳しくは「人の好き嫌いはなぜ変わる?恋愛の行方も決める「扁桃体」」「脳の海馬の働き・機能…記憶や空間認知力に深く関係」をお読みください)が関係し、体験によって獲得・形成される二次的欲求が基本になっています。驚きを感じるような情報が突然脳に入ってくると、急に緊張状態が発生します。この情報について、大脳辺縁系が過去の体験の記憶と照らし合わせて「快」か「不快」かを判定します。「快」と判定されたとき共感・安心感が生まれ、リラックス状態へと切り替わります。この切り替えが比較的ゆっくりなときは、微笑みに近いクスクス笑いとして表現されますが、急に切り替わったときには、いわゆる「爆笑」が起こるのです。
 

動物も笑う? サルやネコの脳にもある笑いの感情

第一と第二の笑いは、生きている脳とたくましく生きる脳によって生み出されますから、人間以外の動物でも見られます。

動物園でサルを観察していると、お腹をたたきながら「クックックッ」と大声をあげ笑ったような表情を示すのを見かけることがあります。また、私の家にはネコがいますが、口に手をあてて目を細め笑ったような表情を示すときがあります。顔や体のつくりが違うのですから、サルやネコが人間と同じような笑いを表出できないとしても、本能的な笑いの感情を生み出す脳のつくりや働きは、人間もサルもネコもほとんど同じですから、サルやネコの脳の中でも笑いの感情が生み出されていることは間違いないでしょう。
 

第三の笑い:人間だけに見られる自己防衛のための笑い

こうした笑いとまったく違い、人間だけが表す笑いがもうひとつあります。それは、媚びた笑いや苦笑いなどです。さして面白くもない上司の冗談に付き合って笑う、初対面の人にニッコリ微笑みかける、何か失敗したときに照れ隠しに笑うなどです。

この第三の笑いは、自己を防衛しつつ集団生活を円滑に営むために、自分の本当の感情を覆い隠すために利用されます。理性を司る前頭前野(詳しくは「クイズが得意なら「賢い」のか?人間らしさと前頭前野のはたらき」をお読みください)によって作られます。したがって、前頭前野が発達した人間だけに見られるというわけです。

笑いのしくみを理解して上手に使いこなすことで、福が来るようにしましょう。
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