「病は気から」ということわざ、科学的にも本当? 病気の症状・進行と関連も
「病は気から」は本当?
心の状態によって、病気の症状や進行が大きく左右されることは実際にあり、それを裏付ける科学的証拠もあります。もちろん、気の持ちようだけで、病気を予防したり治したりすることができるわけではありませんが、病気と闘うためには本人の心が健全であることも大切なのです。今回はこの科学的な仕組みを知っていただきたく、わかりやすく解説します。
精神的ストレスが原因で免疫力や記憶力が低下することも
みなさんは、悩みごとがあったり、気分が落ち込んでいたりするときに限って、風邪をひきやすくなる経験はないでしょうか。正確なデータをとったわけではありませんが、筆者自身の経験からも、けっこうあてはまると思っています。ネズミを使った実験で、長い間ストレスにさらされると、体の免疫機能に関わる部分、とくにTリンパ球の成熟に関わる「胸腺」という臓器が萎縮し、細菌やウイルスに対抗するのに必要な免疫のしくみが低下するという報告があります。また、虐待を受けた子どもの胸腺が委縮してしまうことも知られています。
ストレスと脳の関係についてもたくさんの研究論文が報告されており、そのほとんどは「ストレスが脳に悪い影響を与える」というものです。
私たちがストレスにさらされると、副腎という臓器から「糖質コルチコイド」と総称されるホルモンが大量に分泌されます。このホルモンは、自分の体に危険が及んでいることを知らせる役割を果たしますが、この糖質コルチコイドが脳の中の「海馬」という部位に作用すると、海馬の神経細胞は必要以上に興奮して傷ついてしまいます。海馬は記憶を作るために必要な場所ですが、ストレスに弱く、ダメージを受けやすいために、萎縮してしまうと記憶障害につながります。
認知症の進行は精神の安定によって遅らせることができる
認知症は、「脳の知的機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活が営めなくなっている状態」ですが、現在の医療では治療が困難であり、せめて進行するスピードを遅くすることで健康に過ごせる期間をできるだけ長くするのが精一杯です。認知症の初期ですと、患者本人も自分の異常をある程度自覚できるので、心の中は不安でいっぱいになります。中には周囲に迷惑をかけまいと自分の不調を隠して一人で抱え込んでしまう方もいます。そのような状態が長く続くと、大きなストレスとなって海馬が傷つき、記憶障害が進むという悪循環を招きかねません。そんなとき、患者が失敗をしても、周囲の人が決して怒ることなく優しく寄り添ってくれたとしたら、精神が安定して、症状の悪化を防ぐことができるに違いありません。
まさに「病は気から」です。病気の治療や予防は、単に「薬を飲めば治る」といったものではなく、患者の心を安定させるために、周囲の関わり方がいかに大切かを是非理解してください。