仲良しのママ友だったのに
「子どもが幼稚園のときのママ友4人、すごく仲がよかったんです。子どもが小学校に入ろうと、誰かが引っ越そうと年に何回かは会っていたし連絡をとりあってきました」そんな仲良しのママ友たちとも、このコロナ禍で2年会えなかったとアイミさん(41歳)は言う。そんなママ友とやっと会えたのは、この4月に入ってから。
「子どもたちも今年から中学生。一度は会おうよと、やっと勢揃いしたんです。なかでも子どもが2年生のときに引っ越したカナさんとは5年ぶり。いちばん年が若くて天然だったカナさんに会えたときはうれしかったですね」
4人でわいわいとランチをし、さらにカフェに移動しておしゃべりは続いた。ところがアイミさんには気になることがあった。
「カナさん、ずっとスマホを握りしめているんですよ。会話の中で、誰かが『そういえばみんなで神田祭を見に行ったことあったよね』と言い出して、『東京のお祭りとしてはいちばん古いんじゃない?』なんて話をしていたんです。なぜか私たち、お祭りが好きで、『そういえばみんなで東北にお祭りを見に行ったね』と昔話に花が咲きました。4組の家族でツアーを組んでねぷたとか七夕とか行ったことがあるんですよ。祭りの話が一段落して、もう別の会話に移ったころ、カナさんが『神田祭より三社祭のほうが古いみたい』と突然言い出した。みんな一瞬、黙りました」
別の人が「もうその話、終わったわよ。カナさん、相変わらず天然ね」と冗談を言い、カナさんも笑顔を見せたのだが、また次の話題で同じようなことがあった。
「いちいち調べなくていいよ、別に正確なことを知りたいわけじゃないんだから」
アイミさんがそう言うと、カナさんはハッとしたようにスマホを置いた。どうしたのと尋ねると、そこから話は深刻になっていった。
「子どもたちの成績があまりよくなくて、夫からずっと『おまえに似たんだ、だからふたりとも頭が悪い』と言われている、それがプレッシャーになって何でもすぐ調べて正確なことを口に出す癖がついてしまった、子どもたちに聞かせて覚えさせるためだって。食事時も夫がいなければ、ずっとそうやって調べ続けているらしいです」
それって夫のモラハラに近いんじゃないのと誰かが言い出した。
調べてわかったつもりになっても……
食事のときは会話を楽しみたいカナさんだが、強迫観念にかられてつい調べてしまう。子どもたちもうっとうしいと思っているようだが、「私のせいで子どもたちの成績が上がらないとかわいそうだから」とカナさんはうつむいた。「とにかくスマホを置いて、今日はみんなでたわいもない話をするために集まっているんだからとみんなでカナさんを励ましました」
その後、LINEグループを作り、夫に気になることを言われたら録音した上で、ここにも書き込みなさいと伝えると、カナさんは毎日のように書いてくる。
「激しくなじるとか手を挙げるとかではないみたいです。ただ、カナさんはパートで仕事を始めたようなので、忙しくてつい家事を完璧にできないことがある。そうすると夫は『たかだかパートのためにオレのおかずが冷凍食品になるのか』と言うんですって。彼女、近所のデリさんで働いているから、つい惣菜を買って帰るみたいなんだけど、『これ、作ったの?』といちいち言われる、と。すべて手作りなんて無理なのに」
夫は靴下や下着にまでアイロンをかけてほしいというタイプ。彼女は寝る時間を削ってまでアイロンをかけ続ける日があるという。
「そこまでできないって言いなさい、とあとの3人が怒り爆発。自分でやれって言ってやったほうがいいという意見もありました。でもカナさんは、基本的に素直だし、争うのが嫌いだからと言いなりになっている。今度、カナさんの家にみんなで押しかけて説教してやろうかと言っているんですが、彼女に拒絶されました」
なんとかしてあげたい、だが人の家庭に土足で踏み込むようなこともできない。アイミさんたちは、カナさんがギリギリまでがんばりすぎないよう見守るしかないと、今のところは考えている。