脳科学・脳の健康

fMRIの限界と欠点…説得力がある脳画像、時に誤った使われ方も

【脳科学者が解説】fMRIは非常に優れた脳画像検査法ですが、限界も欠点もあります。実験による脳画像とセットで「脳科学的に○○がよいとわかりました」と説明する宣伝は少なくありませんが、実はfMRIの読み方はそんなに単純なものではないのです。fMRIの限界と、脳画像に対する考え方をご説明します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

間違った形で宣伝に使われることも……脳機能イメージングの功罪

脳画像とお金

脳画像は医療や研究の場だけでなく、商業的な目的で使われることもあります。しかしデータが正しく関連付けられているのか、慎重に判断しなくてはなりません

前記事「fMRIとは…脳の形態と機能が同時にわかる脳画像検査法」で紹介したように、機能的磁気共鳴撮像法(fMRI)は、MRIで得られた脳の構造の上に、脳のどの領域が活動したかを重ね合わせて表示できる技術です。手術のように体を傷つけることもなく、陽電子放出断層撮像法(PET)のように放射性物質を使うこともなく、長くても数十分程度の検査だけで、頭の中で脳がどのように活動しているかを知ることができますから、健康なボランティアの人に協力してもらって、何か作業を行っているときの脳をスキャンするといったことも可能になりました。

たとえば、あなたが素敵な人に出会って恋に落ちた時や、おいしいステーキが食べたいなんて思っている時などに、脳のどこがどう働いているのかを調べられるようになったのです。fMRIは、脳科学研究に大きな変革をもたらしました。

fMRIには、いくつかの種類がありますが、そのうち最もよく用いられている測定法の基本原理となっているのは、BOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)効果と呼ばれる現象で、1989年にアメリカのベル研究所でMRIの研究をしていた小川誠二博士(現・東北福祉大学特別栄誉教授)が発見しました。MRIを使ってマウスの脳画像を撮影しているときに、マウスが急に酸素欠乏に陥ってしまったのですが、そのとき、血管を示していた細い黒い線がMRIの画像から消えることに気づき、これが脳血流ならびに血液中の酸素濃度の変化がMRI信号に現れてくること、つまりBOLD効果の発見をもたらしたのでした(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 9868-9872, 1990)。そして、人間の脳でも同じ現象が起きることが確認され、人間の脳機能イメージング法としてfMRIが実用化されました(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 5951-5955, 1992)。
 
fMRIは、1990年代後半から急速に世界中に普及し、医学、神経科学、心理学分野にとどまらず、社会学、経営学、芸術、教育など多岐にわたる分野の研究にも活用されるようになってきました。脳科学が今のように社会全般から大きな関心を集めるようになったのも、fMRIという技術が登場したおかげと言っても過言ではないでしょう。

fMRIは、脳の活動を視覚的に表現できるので、インパクトがあります。その画像を見せられて、「○○が脳科学的に実証されました」と説明されると、多くの方がそれを信じてしまうでしょう。特に近年は、あらゆる分野のビジネスで、消費者を誘う手段としてfMRIのデータが無責任に流用されているケースも目にします。脳科学の専門家としてはたいへん残念に思っています。

fMRIは、万能ではありません。いくつかの欠点があり、注意深く読み取らないと、大きな誤解を生んでしまうこともあります。そこで今回は、みなさんがあやしい情報に振り回されないように、あえてfMRIの限界と欠点について触れておこうと思います。
 

fMRIの限界……神経細胞の活動を見ているわけではない

まず何よりも注意しなければならないのは、fMRIでは、脳の神経細胞(ニューロン)の電気的活動を直接見ているわけではなく、活動に伴う神経代謝や脳血流量の変化を間接的にとらえているに過ぎないということです。もっと正確に言えば、fMRI信号が大きくなったことで分かるのは「酸素と結合したヘモグロビンの量が増えている」ということだけです。

ヘモグロビンは血液中にあり、新鮮な血液がどんどん供給されるためには、血液の流れが速くないといけませんから、「酸素を結合したヘモグロビンが多い」=「局所の血流が増加している」と類推することはあまり問題ないと思います。しかし、血管と神経細胞は別物ですから、血流が増えている場所で「神経細胞がよく活動している」と単純に言うことはできません。

神経細胞が活動するのに必要なエネルギーは、酸素を使って作られます。そのため、神経細胞が活動しているときには、その周辺にある血管の中にあるヘモグロビンに結合した酸素が、血管の外に移動して、神経細胞に供給されていきます。需要と供給のバランスがとれていれば問題ありませんが、酸素の供給が足らなくなると、神経細胞は酸欠になってしまいますので、それを防ぐため、神経細胞は、「もっと酸素をくれ!」という信号を血管に送ります。その信号を受け取った血管は、拡張することによって、血流を増やして速やかに酸素を供給できるようにします。

どのようなしくみで、神経細胞から血管に信号が送られているかは十分解明されていませんが、神経細胞と血管の間にある他の細胞が関係していることが分かりつつあります。具体的には、神経細胞と血管をつなぐように存在する「アストログリア細胞」や、血管の外側にとりついている「周皮細胞(ペリサイト)」が、神経細胞の変化を感じとって、血管に伝える役割を果たしているようです。

したがって、たいていの場合は、「神経細胞が活発に活動すると、その周辺の血管が拡張して血流が増える」という原理が成り立つでしょう。しかし、神経細胞が過剰に興奮しているときや、血流障害があるときには、神経活動に血管が応答しきれないこともあります。また、神経細胞が活動していなくても、何らかの理由で血流が変化することもあります。さらに、脳の中には、太い血管もあれば細い血管もあり、血液の流れは一様ではありません。

これらのことを考え合わせると、
  • MRI信号が変化しても、神経細胞が活動しているとは限らない
  • 神経細胞が活動しているのに、MRI信号に反映されないこともある
  • MRI信号の変化と神経細胞の活動度は比例していないので、MRI信号が大きく変化した場所で神経細胞がよく活動しているとは言えない
というわけです。
 

fMRIの限界……脳の活動をリアルタイムで見ることはできない

fMRIは、「脳のどの領域が活動しているかをリアルタイムで画像化できる技術」と評されることがありますが、実際にはそうではありません。

「脳の活動」が何を意味するかにもよりますが、最終的に脳の働きを決めているのは神経細胞の電気的活動で、ミリ秒オーダーで起きている現象です。一方、fMRIで検出される血流の変化は、少なくとも1~10秒かかります。1000倍以上の時間のズレがあるのです。

遠く離れたところで雷が発生し、ピカッと光る稲妻が見えた後に、かなり遅れてゴロゴロと音が聞こえることがありますね。それと似て、脳の中で実際に神経細胞が活動していても、すぐにはMRI信号の変化は生じず、だいぶ遅れてから現れるのです。

とくに、脳のあちらこちらで、神経細胞が複雑に繰り返し電気信号を発生させているようなときは、MRI信号の変化が脳のどこでどのタイミングで起きた事象に対応するかを判別することは事実上不可能です。

そのため、現在行われているfMRIの解析では、ある一定の長い時間の中で生じた変化を平均化したときに、「比較的信号の変化が大きかった場所」が抽出できる程度です。
 

fMRIのデータを思い込みで機能と関連付けてはいけない

たとえば、おいしいステーキを食べながらfMRIの測定を行い、特定の脳領域がよく反応したという結果が得られたとしましょう。このとき、その脳領域は、どんな機能と関係しているのでしょうか。一連の行動の中には、「ステーキを見て認知する」、「食べるという運動」、「快楽を覚える」など様々な要素が含まれていますから、得られた結果の解釈はいくらでも可能です。

「おいしいステーキを食べたときの脳活動が見えた!」というだけで面白いかもしれませんが、科学的には何の進歩もなく、「だから何?」と言うしかありません。場合によっては、ステーキを食べたことと何も関連性のない行動が、たまたまfMRIに影響しただけということもあり得ます。

fMRIの実験は、そんなに簡単なものではありませんから、せっかくやるなら明確な結論が得られるような研究デザインを予め考える必要があります。たとえば、上の例ならば、「見かけは全く同じだが味の違うステーキを用意して、食べたときの反応を比べる」といったような実験を組むことによって、より絞り込んだ結論が得られるでしょう。

残念ながら、fMRIを用いた研究の中には、研究デザインが適切でないために、誤った解釈をもたらしている場合があります。その結果に対する実験者の説明は、時にはバイアスがかかった都合のいい思い込みでしかないこともあるのです。脳画像を示して説明されると何でも説得力があるように見えますが、安易に鵜呑みにせず、慎重に評価することも大切です。
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