不審者から子どもを守る、持ち物への記名のポイント
子どもを不審者から守るための方法のひとつとして、持ち物の記名についての考え方が見直されつつあります。持ち物で名前を確認してから知り合いを装って話しかけてくる不審者、勝手に写真を撮影されてインターネット上にあげられてしまう犯罪などのことを考えても、不特定多数の人に名前を知らせるのはやはり危険といえるでしょう。 佐賀県でも、登校中の小学生が複数回待ち伏せされて写真を撮られた上、インターネット上の掲示板に投稿されてしまうという事件がありました(SAGATV「登下校中の名札の付け方など 警察が協力を呼び掛け」2021年4月2日)。
この事件では、小学生が名札を付けていて、顔・名前・学校名など、個人が特定できる状態だったようです。その後、警察は名札やゼッケンの着用を見直すといった指導の検討を各市町の教育委員会や学校に呼びかけたそうです。
全国的に見ても、名札は校内にいるときだけ付けたり、校外に出るときは裏返して付けたり、名札そのものを廃止したりする学校が増えています。お子さんの学校はいかがでしょうか? また、名札以外の持ち物についても、目立つところに記名をしていませんか? 一度確認してみることをおすすめします。
今回は、持ち物の名前を書くときに注意したいことや防犯教育について考えていきましょう。記名に便利なグッズなどもご紹介します。
名前は知られたくないけれど、子どもの持ち物には記名したい
不審者に名前を知られないようにしたいとはいえ、子どもの持ち物に全く名前を付けないのは難しいもの。緊急時・災害時には名前がわかるものが必要ですし、子どもの持ち物は、かぶったり同じような色・形・デザインのものが多かったりするため、どうしても他の子のものと取り違えることがあるからです。また、なくし物や落とし物の多い子もいるでしょう。文房具のような小さな物だけでなく、アウターや水筒など比較的目立つものも、どこかに忘れてきてしまうこともあります。
園や学校内での取り違えや落とし物であれば、名前が書いてあれば手元に戻ってくることも多いでしょうから、やはり記名はしたいもの。そこで、どこに、どのように書くかなど、以下のようなポイントを注意して記名することをおすすめします。
■ポイント1:園外・校外で使うものは見えない位置に記名を
基本的に園外・校外で使うものは、見えない位置に名前を記入しましょう。たとえば、ランドセル・リュック・防犯ブザー・定期入れ・手提げバッグ・布団袋・靴・帽子・傘などです。衣類も内側がいいですね。
さらに、子どもにいつものように持たせて、動いてもらったりしてチェックすることをおすすめします。バッグ類の底に書いた名前が激しく動くと逆に目立ったり、名前を書いたタグが帽子や襟元からはみ出したりと、大人には予想できないこともあるからです。見えない位置への記入が難しい場合は、後ほどご紹介する便利グッズなどを利用してもいいと思います。
■ポイント2:体操着袋などの袋物は手提げバッグで持ち運びを
上履き袋やコップ袋などの袋物は、一括管理するために袋の外側に記名を求められることが多いようです。名前を書く位置や文字のサイズを変えるのが難しいようなら、これらは手提げバッグなどに入れて持ち運ぶようにしましょう。
■ポイント3:プライベートで使用するおもちゃにもマークを
家でしか使わないものは特に記名する必要はありませんが、お砂場セットなど、他の子のものと混同しやすいもの、外で使用するものは、自分のものだとわかるようにした方がいいですね。すべてに同じマークを書いたり、好きなキャラクターのシールなどを貼ったりするのもおすすめです。
園や学校によって異なる防犯意識。「名前は目立つところに大きく」と決められているときは?
防犯に対する意識については、園や学校によって全く違います。「なるべく目立たないようにしましょう」というところも、反対に「目立つところに大きく書いてください」というところもあります。「学校で使用するものは目立つところに大きく書く」と決められている、ある小学校の先生に防犯面への不安について質問したことがあるのですが、その返答は、
- 名前を目立つほど大きく書かなければいけないのは、入学してすぐだけということも多い。子どもが自分で管理できるようになったら、目立たないところに記名してもさほど問題はないのではないか。
- 持ち物(袋類など)を同じ柄にすると、それが誰のものか、本人もまわりの子どもたちも、すぐに覚えてしまう。その後は、目立たないところに記名してあっても、日常生活で困ることは少ないように感じる。
こちらは先生の個人的なご意見とのことですが、気になることがあれば、ひとまず相談してみるとよいでしょう。子どもの生活やルールの背景がわかり、親として対応しやすくなることもあります。また、別の見方について知ることで、納得は難しくても理解はできるかもしれません。
たとえば、モヤモヤしがちなのが、制服やジャージへの名前の刺繍。指定であればなかなか避けられませんが、特に中学生ともなると、学校行事や部活などでそれを着て公共の交通機関を使い、遠くまで出かけることもあります。
「小学校のときは、名札は学校でしか付けなかったのに」「電車で名前をじろじろ見られて嫌だった」と戸惑う子どもは少なくないと、私も感じています。
大阪府四條畷市では、個人情報への不安ではありませんが、金銭・時間ともに無駄であり、リサイクルもできないため、制服の刺繍はやめてほしいという意見が中学入学予定の保護者から出ています。
それに対して教育委員会教育長は「名札やゼッケンの対応など保護者負担軽減に加え、教科指導や生徒指導といった学校生活上、全教職員が即座に名前を確認できるよう、本校の教育活動を円滑に進めるため」刺繍はやめないと回答しています(四条畷市ホームページ 市長への意見箱「中学校の制服の刺繍について」2020年1月29日受付)。
一方、神戸市立大池中学校では、個人情報やプライバシー保護の観点から、刺繍の名前をなくしました(神戸新聞NEXT「姿消す体操服「胸元の名前」 プライバシー保護の流れ加速 神戸市内の中学校」2021年11月22日)。
先生方のご苦労は大変なものでしょうし、生徒同士の取り違いの数はなかなか減らないとのことですが、石井健之校長の
という言葉に、安心する子ども、保護者も多いのではないでしょうか。昨今、声かけ事案や不審者の発生が多い。いろいろ不便もあるが、生徒たちが安心して登校できるよう、リスクを最小限に抑えることが何より大切
学校の考え方に賛同できる人もいれば、反対の思いを抱く人もいるでしょう。けれども、ブラック校則と同じように、声をあげることは、何が本当に必要なのかを自分たちで考え、学校にも改めて考えてもらうきっかけになるでしょう。
防犯を意識した名前付けに便利なグッズ
■外さずに表と裏が変えられる「キッズターナブル名札」「キッズターナブル名札」【画像】西敬
■新発想! 見えづらいお名前シール「かくれんぼお名前シール」
「かくれんぼお名前シール」 【画像】リゼット
■名前を隠せるネームタグ「プチッとネーム」 反転させると、名前が隠れるネームタグです。本体に付いているゴムひもで、靴、カバンの持ち手や傘などに付けられます。
■自分の傘がひと目でわかる「アンブレラグリッパー」
「アンブレラグリッパー」(ダンケ)【画像】ノルコーポレーション
シリコンリングを使うことで、好きなアンブレラーマーカーを手作りすることもできます。 また、持ち手や柄の邪魔にならないところに、マスキングテープやヘアゴムなどで印をつけてもいいですね。
■名前を隠せる機能のある、絵の具セットや書写セット
絵の具セット(【画像】モリベクリエーション)
記名に注意するだけでは足りない! 必要なのは防犯教育
親がいくら名前付けに気を配っても、肝心の子どもの方がふざけながら大声で名前を呼び合ったり、名札を外すのを忘れて帰ってきたりすることがありませんか?(わが家はあります)。子どもが自分で危険を回避できるようにするためには、防犯について教えることも大切です。日常的に通る道、利用している場所にも、危険な場所があるかもしれません。たとえば、住宅街の通学路でも、塀に囲まれた家が多く死角が多かったり、あまり人通りがなかったりする場合は、注意が必要です。
また、公園の奥の方にあるトイレ・駐輪場・屋外の階段などに不審者が潜んでいる可能性もあります。危ない場所には行かない、行く必要があるときは大人や友だちと一緒に行く、ということを徹底しなければなりません。
さらに、知らない人が声をかけてきたときや、留守番中に人が来たり電話がかかってきたりしたときにとるべき行動についても教えておきたいですね。
防犯教育におすすめの本・サイト
防犯について子どもに教えるときは、本やサイトを使用するのがおすすめです。なぜなら、わかりやすいだけでなく、口頭で説明するよりも印象に残るから。また、心配のあまりに危険を強調しすぎて、子どもを必要以上に不安にさせてしまうことも避けられるでしょう。
『いやです、だめです、いきません 親が教える 子どもを守る安全教育』清永 奈穂(著)(岩崎書店の子育てシリーズ 5)、2021【画像】岩崎書店
狙われやすい「あぶない子」も紹介されているので、子どもが「これは自分かも……」と不審者に狙われやすいふるまいに気づくことができるでしょう。
『防災・防犯シミュレーション 身近な危険 そのときどうする?』国崎 信江(監修)、2019 【画像】ほるぷ出版
さまざまな危険な状況に置かれたとき、マンガの主人公と一緒にどう対処するか考えていく構成になっています。たとえば「公園のトイレ、どの個室を使う?」なら、「手前」「使用中のとなり」「一番奥」という選択肢が用意されており、ページをめくると、その答えと解説が書かれています(答えは「手前」です)。
エレベーターに乗るときや友だちが知らない人に声をかけられているとき、またスマホのトラブルなど、本当に身近な危険が紹介されており、子どもへの注意喚起にもつながります。
今は、インターネット上でも、子ども向けのさまざまな防犯情報が掲載されているため、お子さんに合ったものを探してみてもいいですね。美和ロック株式会社の提供する「家族deロック防犯検定」は、クイズ形式なので取り組みやすいと思います。親用、子ども用があります。また、大人が基礎知識を付けたいときは、内閣府の設置した「登下校防犯ポータルサイト」で文部科学省や警察庁などの取り組みが一覧できます。
普段から、防犯についての意識を!
普段の暮らしの中にも、防犯に役立つタネはたくさんあります。たとえば、生活についての基本的なルールや家族との約束を守ること。出かけるときに、行く先・友だちの名前・行く時間・帰る時間などを必ず知らせると約束していれば、緊急時にも親がすぐに対応することができます。
また、近所の人にきちんとあいさつしていれば、何かあったときに子どもが助けを求めやすくなるだけでなく、子どもの危険に気づいてもらいやすくなります。また、家族以外の人を多く知ることで、子どもが「この人は何かおかしいのでは」という違和感に敏感になれますね。
悲しく、心配なことですが、子どもが巻き込まれる事件は後を絶ちません。記名や普段の生活、そして防犯教育から、子どもの安全を少しずつ積み上げていきましょう。