脳科学・脳の健康

脳が大きいほど頭がよい?脳の大きさ・シワの多さと知性の関係

【脳科学者が解説】私たち人間は、この地球上で最も進化した脳をもっています。他の動物に比べると頭でっかちで、頭蓋骨の中に、大きくてシワだらけの脳が入っています。この世のすべてを作っていると言っても過言ではない、私たち人間の脳のどこが優れているのか、その秘密を一緒に解き明かしてみましょう。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

脳を知れば世界がわかる! この世のすべてを作っている「脳」

脳の大きさと頭の良さ

脳の大きさと賢さは比例するのか……意外なことに天才科学者の脳は少し小さめでした

「ひゃーっ、ヘビだ!」と叫び声を上げて飛び跳ねたけれど、落ち着いてよーく見るとただのロープだった。そんな経験は誰にもあることでしょう。あなたが見たもの、触れて感じたものは、必ずしも現実ではなく、あなたの脳が解釈して作り出したイメージの世界に過ぎません。また、科学や芸術のような知的活動、恋愛や宗教などの精神活動、さらには戦争・犯罪・いじめなどの社会問題まで、すべては私たちの脳が生み出したものなのです。つまり、「脳を知る」ということは、この世の成り立ちを理解することでもあるのです。

最近は脳に関する書籍が次々に出版されたり、脳を題材にした特集番組がテレビで放映されたりと、「脳」がブームになっています。多くの方が脳に興味をもっている証でしょう。しかし、興味はあるけれど何だか難しそうでよくわからないという方も少なくないかもしれません。長年脳の研究を行ってきた私が知る限りのことを、わかりやすくかつ丁寧に解説することで、みなさんの興味に応えるとともに、あわよくば得た知識を生活に役立てていただけたらと願っています。
 

脳の大きさと知的レベルに関係はあるのか? 人間と動物の脳の大きさ比較

ご存知のように、脳は頭蓋骨の中にある臓器の一つです。そして、私たち人間の脳は、この地球上でもっとも進化したものだと言われています。脳科学の基礎固めとして、人間の脳のどこが優れているのかを、一緒に考えてみましょう。

人間の脳の特徴の一つは、その大きさです。

実際に見たり触れたりしたことはなくても、自分の頭蓋骨の中に納まっているとすればどれくらいの大きさかはだいたい想像つきますね。顔を洗うときに水をすくうように広げた両手にちょうどのるくらいのサイズと表現すればわかりやすいでしょうか。人間の脳全体の容積は1,300mLくらい、重さは1,200~1,500g(1.2~1.5kg)です。

地球に存在する動物の中では、大きい方です。人間に近縁の動物と比べると、ニホンザルの脳は80gくらい、ゴリラの脳は550gくらい、そして人間に最も近く知的レベルが高いと言われるチンパンジーの脳は400gくらいですから、私たちは、頭でっかちで大きな脳を持っているとみなせます。ただし、人間より大きな脳を持っている動物もいます。

陸上動物で最大の脳を持っているのは、おそらくアフリカゾウでしょう。オスの成獣で4.5~5.5kgと言われていますので、人間の3倍以上の脳を持っています。海も含めた地球全体で考えると、マッコウクジラが一番だと言われています。なんとオスで9~10kgの脳をもっているそうです。私はその実物(標本)を見たことがありますが、自分の首から上の頭部よりも大きな脳に圧倒されました。もし、脳が大きい方が優れているのなら、マッコウクジラはスーパーコンピューターを超える頭脳をもっているのかもしれません。

でもよく考えてみると、ゾウやクジラは体が大きいですよね。全体重に占める脳重量の割合を概算してみると、人間は2%、アフリカゾウは0.1%、マッコウクジラは0.02%ですので、ゾウやクジラは巨大な体の一部に「豆粒」のように脳があるだけとみなすのが妥当でしょう。
 

脳が大きい人の方が頭がよい? アインシュタインの脳は意外と小ぶり

同じ人間どうしで比べたときはどうでしょうか。

私が研究対象としている認知症の原因疾患であるアルツハイマー病は、次第に脳が委縮していく病気です。神経細胞が死滅して脳が小さくなるにつれ、知的機能が損なわれていくので、脳が小さいよりも大きい方がよいように思えるかもしれません。しかし、別人で比較すると、知能レベルの高い人が必ずしも大きな脳を持っているとは限りません。

記録上最も大きい(重い)脳をもっていた有名人は、おそらくロシアの文豪のイワン・ツルゲーネフで、2,000gを超えていたそうです。日本の文豪として有名な夏目漱石の脳は1,400g強で、現在も東京大学医学部の標本室にホルマリン漬けになって保管されており、私自身実際に見学したことがありますが、特に大きいという印象はありませんでした。一方、天才科学者として有名なアルベルト・アインシュタインの脳は1,200g強で、どちらかと言うと小さめだったそうです。フランスの詩人・小説家のアナトール・フランスの脳は1,000gくらいしかなかったそうです。大きさ(重さ)と知的レベルは、必ずしも相関しないようです。
 

脳のシワと賢さは比例する? 人間の脳にたくさんのシワがある理由

人間の脳の第二の特徴は、たくさんのシワがあることです。脳のシワは、正式には「脳溝(のうこう)」と言います。脳のうち、とくに大脳皮質と呼ばれる部分に、大きな脳溝がたくさんあります。

近縁種の動物で比べると、ニホンザル<ゴリラ<チンパンジー<ヒトという順に、脳溝が多くなります。また、同じ人間でも、赤ちゃんの脳には比較的少なく、成長に伴って脳溝が発達して増えますので、やはり脳溝が多い方が頭がいいと思えますよね。

しかし、この地球上には、私たち人間よりはるかに多くの脳溝をもった動物もいます。それは、クジラやイルカです。とくにイルカは、人間とコミュニケーションができて、人間よりも知能レベルが高いと唱える学者もいるくらいですから、「やっぱり脳のシワが知性の証だ」と思いたくなります。

ただ種明かしをしてしまうと、クジラやイルカは海で暮らし水中を泳がなければなりませんから、頭でっかちではいられません。泳ぎの邪魔にならないように、頭蓋骨を小さくして、その中に必要な脳を詰め込まなければならず、結果的にシワクチャの脳になったと考えるのが妥当です。人間は生まれたときから頭蓋骨の大きさがだいたい決まっており、その限られたスペースの中でそのまま脳が成長していくと納まらなくなってしまうので、脳溝を設けたというのが本当のところでしょう。

だから、脳のシワが多いというだけで、人間の知能を説明できることはできないのです。

では、人間の脳が優れているのは一体なぜなのか。勿体つけるようで恐縮ですが、その答えは、「人間だけが創造的になれたのはなぜか?脳で紐解く動物との違い」で明かしていきます。
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