陰陽五行説では、「人が亡くなると鬼になる」と考えられている
節分の鬼
太古の時代から、災害や疫病などの災いは、鬼の仕業だと考えられていました。その一方で、鬼は人に優しく親しみを抱かせる存在でもあります。鬼という目に見えない存在を表現するために、人々は想像力を働かせてきました。
鬼は、鬼門にあたる丑寅の方角(北東)に居座っていると考えられ、牛(丑)の角をもち、寅(虎)の皮を身につけるという鬼の風貌が生まれてきました。日本の昔話の「桃太郎」では、猿・雉子・犬が鬼に立ち向かう家来となっています。北東の鬼門に対して、西南の方角を示す申酉戌(さる・とり・いぬ)が選ばれたわけです。
このように、鬼のイメージは古代中国の陰陽五行説の考えが反映しているようです。
鬼の色は何色?
ところで“現代の鬼”といえば、俳優の菅田将暉さんが演じる、auのCMキャラクター「三太郎シリーズ」の鬼ちゃんを連想する人も多いのではないでしょうか?鬼ちゃんは赤を基調としたコスチュームを着用しており、鬼の色といえば赤というイメージがあるのかもしれません。鬼ちゃんには、小さな角が2本生えていますが、肌の色はナチュラルで、子どもの頃に見た絵本などの鬼よりも、人間らしい姿となっています。鬼ちゃんは8児の父親で、雷さまを兼任したり、お正月はおしるこ屋、夏祭りでは雷おこし屋を営んだりするなど、家族を支えるために、副業もがんばっています。
ちなみに、子どもの名前は、俳優の鈴木福さん演じる赤鬼、青鬼、鬼子、オニオン、おにぎり……などです。
このように、現代の日本では鬼の色は赤で表現されることが多く、赤鬼と青鬼の二鬼の組み合わせも見られます。その一方で、現代の中国の鬼は、色は用いられない傾向があるようです。日本では、江戸時代に浮世絵の題材として人気を博したように、鬼は娯楽の1つとして親しまれてきました。中国では幽霊のイメージが強く、怖いモノは見たくないという心理が働くのかもしれません。
赤鬼や青鬼……それぞれの鬼の色は人間の“煩悩”を表している
節分に登場するのは、主に赤鬼と青鬼ですが、地域によっては、黄鬼(白鬼)、緑鬼、黒鬼が登場することがあります。赤鬼・青鬼・黄鬼や赤鬼・緑鬼・黒鬼という三鬼の組み合わせもありますが、節分の鬼の色は五種類あるため、仏教の五蓋(ごがい)と結び付けられてきました。五蓋とは、仏教における瞑想修行の妨げになる煩悩(ぼんのう)のこと。煩悩とは、身心を煩わせる心の働きを意味する仏教の用語で、蓋には、本当のことが分からないように、つつみ隠してしまうという意味があります。
「鬼に金棒」という言葉がありますが、金棒を持つのは赤鬼で、他の色の鬼はそれぞれ異なる武器を携えており、象徴する煩悩の種類も異なります。
■赤鬼:金棒
渇望・欲望・貪欲の象徴
豆をぶつけることで、自らの悪心が取り除かれる
■青鬼:刺股(さすまた)
瞋恚(しんに:悪意・憎しみ・怒り)の象徴
豆をぶつけることで、福相(福々しい顔つき)や幸福、利益に恵まれる
■黄鬼(白鬼):両刀ののこぎり
掉挙(じょうこ:心が昂ぶり頭に血が上った状態)・悪作(おさ:後悔)・我執(がしゅう:我が儘)の象徴
豆をぶつけることで、甘えを取り除き、公平な判断ができるようになる
■緑鬼:薙刀(なぎなた)
惛沈(こんじん:沈鬱な状態)・睡眠(すいめん:眠気)・不健康・怠惰・過食・不真面目の象徴
豆をぶつけることで、不摂生を反省し、健康を保つように言い聞かせる
■黒鬼:斧
疑いの心・愚痴の象徴
豆をぶつけることで、卑しい気持ちを追い払い、平穏な心へと導かれる
鬼払いの儀式も中国から伝わったものですが、宮中の儀式から民間行事として広がり、発展してきました。節分に炒った豆を蒔くのは、「魔目・魔滅(まめ)を射る」の語呂合わせになっているという説もあります。節分行事は、目に見えないものに対する恐怖が根底にありますが、娯楽性も備えています。
その一方で、仏教の考えと結びついたことで、煩悩という心の問題に向き合うきっかけにもなりえます。五色の鬼は、わたしたちの心を惑わせるものであり、煩悩を追い払うことで、こうなりたいと願う自分と向き合うチャンスを得られるのかもしれません。
参考文献
吉村 耕治、山田 有子(2018年)「日本文化と中国文化における鬼を表す色 ―和文化の基底に見られる陰陽五行説―」日本色彩学会誌 第42巻 第3号
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