Q:無職なので、年金を60歳から繰り上げ受給したほうがよいのでしょうか?
「87歳の父親の介護のため、無職でいる55歳です。預貯金が5000万円あり、今は父の年金が年間100万円。実家は持ち家でローンはありませんが、築60年のためリフォームが必要になってきます。私は65歳から年金を受け取るので、それまでは、預貯金を取り崩しての生活になりますが、年金を60歳からもらったほうがよいかアドバイスお願いします。父親が高齢のため、死去後はバイトしたいとは思いますが、高齢のため採用してもらえないかもしれません」(相談者)親の介護で仕事をしていないが、年金を繰り上げ受給したほうがいいの?
A:繰り上げ受給しなくても、老後資金は足ります
まず、将来使う予定のお金について考える必要があります。ひとつ目は、ご実家は築60年とのことですのでリフォーム費用を確保することになります。リフォーム費用は、工事内容によりさまざまですが、1000万円くらいを相談者自身の5000万円の預貯金から用意することになると思います。ふたつ目は、相談者が高齢になり医療費の負担が多くなることや、介護の費用・予備資金として1000万円確保したいと思います。
残りの貯金額……5000万円-1000万円(リフォーム費用)-1000万円(自身の介護費用)=3000万円
総務省『家計調査年報(家計収支編)2023年』によると、平均的な65歳以上・単身無職世帯の支出額は約14万5000円/月、年間約170万円です。65歳以降の数字になりますが、55歳の今からこの支出額で生活ができるように、生活を見直してみましょう。この支出額で生活した場合、何年間で預貯金を取り崩すことができるか計算してみます。前提として、お父様の生活費はご自分の年金を使ってもらうとして、相談者の貯金を使うことは考えません。
170万円×10年間=1700万円……相談者が55歳~65歳になるまでに取り崩す貯金額
3000万円から1700万円を引くと、残りは1300万円となります。もし65歳から月14万円の年金を受け取れるとすれば、その年金で生活を賄えるようにダウンサイジングをすれば、貯金額は減らさずにすみます。
また、月14万5000円で暮らせないと考える場合は、月2~3万円は収入を得るということも考えてみてください。
続いて、相談者が年金受給開始を60歳に、繰り上げ受給した場合について考えてみます。
60歳になるまでに取り崩す貯金額は170万円×5年間とすると、850万円です。3000万円から850万円を引くと、60歳時点の貯蓄額は2150万円となります。
老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて65歳から14万円/月(168万円/年)受け取れると仮定します。
繰り上げ受給で1カ月早くもらうごとに、本来の年金額から0.4%の減額(昭和37年4月2日以降生まれの人の場合)されます。5年間の減額率は、0.4%×(5年間×12カ月=60カ月)=24%となります。したがって、60歳から受け取れる金額は、168万円/年×(1-0.24)=127万6800円/年(10万6400円/月)になります。
先ほど、将来使う予定のお金について考えた際と同様に、もし60歳以降、約14万5000円/月(170万/年)で生活できても、繰り上げた年金額では足りず、毎月3万9000円ほど(年間で約47万円)が不足します。貯蓄額2150万円から取り崩せる期間とは……
取り崩せる期間:2150万円÷47万円/年=約45年
極端ですが、60歳から年金を受け取ると、2200万円を取り崩す期間は60歳+45年と考えると105歳までとなります。これはあくまでも相談者が65歳から厚生年金を月14万円受け取れると仮定しての試算になります。もらえる年金額が少ない場合は再度計算する必要があります。
繰り上げ受給した場合の注意点ですが、いったん繰り上げ受給すると取り消しできないうえ、減額された年金は一生涯減額されたままです。その他、受給権発生後に初診日(障害の原因となった傷病について初めて医師等の診療を受けた日)があるときは、障害基礎年金が受けられません。また、国民年金に任意加入できないなどのデメリットがあります。老齢年金の繰り上げ受給には注意しなければなりません。
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監修・文/深川弘恵(ファイナンシャルプランナー)
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