鉄道

近鉄の名阪特急「ひのとり」が人気の理由。新幹線「のぞみ」と比較した魅力は

2020年3月に運行を開始した近鉄の名阪特急「ひのとり」が大人気だ。スピード感あふれるメタリックレッドの鮮やかな外観は、近鉄のこれまでのイメージを打破した斬新なもの。高級感いっぱいの豪華な車内は、「移動時間をくつろぎの時間へ」と変えてしまった。

野田 隆

執筆者:野田 隆

鉄道ガイド

2020年3月に運行を開始した近鉄の名阪特急「ひのとり」が大人気だ。スピード感あふれるメタリックレッドの鮮やかな外観は、近鉄のこれまでのイメージを打破した斬新なもの。高級感いっぱいのゴージャスな車内は、「移動時間をくつろぎの時間へ」とのキャッチコピーにふさわしい。
 

「ひのとり」とは

ひのとり

大阪難波駅に到着した「ひのとり」

「ひのとり」は、観光列車ではない。大阪市内と名古屋市内という2大都市圏を結ぶ列車。ヨーロッパ諸国で見かけるインターシティ(InterCity)と呼ばれる特急列車に相当する。にもかかわらず魅力的な車内は、新幹線や高速バスなどの他の交通機関を意識したもの。「くつろぎのアップグレード」をコンセプトとして、移動時間をくつろぎの時間へと変えてしまった充実の車内は、乗った人誰にも満足を与え、燦然と輝く栄誉に満ちている。
 

「ひのとり」の編成

「ひのとり」のロゴ

「ひのとり」のロゴ

「ひのとり」には6両編成と8両編成があり、大阪難波駅と近鉄名古屋駅を最速2時間5分で結んでいる。朝の7時(土休日の大阪難波発は6時が始発)から夜の9時まで毎時00分に発車(土休日は増発列車あり)し、分かりやすいダイヤで、指定券さえ取れれば気楽に乗車できる。

途中の停車駅は、原則として大阪上本町、鶴橋、津のみ。朝夕の列車に大和八木にも停車するものが若干あるほか、大阪難波発21時の最終列車は、白子、近鉄四日市、桑名にも停車する。
 
「ひのとり」の編成は、先頭車と最後尾の車両の2両がプレミアム車両、中間の車両(8両編成の場合は2号車から7号車までの6両、6両編成の場合は、2号車から5号車までの4両)がレギュラー車両となっている。
 

ゴージャスなプレミアム車両

プレミアム車両の車内

プレミアム車両の車内

プレミアム車両は、普通の車両よりも床が一段高くなったハイデッカー構造で窓からの見晴らしがすこぶるいい。通路を挟んで1人掛けと2人掛けの座席がゆったりと配置されている。本革を使用した座席は電動リクライニングシートで最大限倒しても後ろのシートに座っている人へ圧迫感を与えないバックシェル構造だ。伸縮式電動レッグレスト、高さ・角度調整機能付きヘッドレスト、全席にコンセント設置と至れり尽くせりである。
プレミアム・シート

本革を使用したプレミアム・シート

シートピッチは130cmと実にゆったりとしていて、これは東北新幹線などで走るグランクラスと同じだ。同じ近鉄の「しまかぜ」が125cmだったので、さらに進化したことになる。また、横揺れ防止の電動フルアクティブサスペンションを装備しているので、高速走行でも揺れはほとんど感じない。「ひのとり」が走る近鉄線は新幹線と同じ線路幅1435mmの標準軌を採用していることも相まって、JR在来線の特急列車と比べると極めて安定した走りをみせてくれる。
 

JRのグリーン車並み設備を誇るレギュラー車両

レギュラー車両の車内

レギュラー車両の車内

レギュラー車両は、いわゆる普通車に相当するが、グレードの高い座席で、JRのグリーン車並みのレベルだ。通路を挟んで2人掛けの座席が並び、シートピッチ116cmは東海道新幹線のグリーン車と同じである。高さ調整機能付きのフットレストがあるのもグリーン車並みだ。
レギュラー・シート

レギュラー・シート

さすがに、リクライニングや窓のカーテンの調整は手動で、プレミアム席と差をつけているものの普通車とは思えない高級感を感じさせる。もちろん電源コンセントはすべての席に設置されている。
 

荷物置場などの設備も充実

ロッカーとベンチスペース

ロッカーとベンチスペース

大型スーツケースを持ち込むと置場に困るのが、新幹線をはじめとする日本の鉄道車両の欠点だった。「ひのとり」では、鍵のかかるロッカーがプレミアム車両とレギュラー車両の合計4カ所にあり、ほかに荷物置きスペースもある。
喫煙室

編成中、3号車には喫煙室がある

また、レギュラー車両のロッカーに隣接してベンチスペースがあり、気分転換や携帯電話の使用などに利用できる。さらに、3号車には喫煙室もあり、愛煙家には歓迎されるだろう。
 

カフェスポットと自動販売機

カフェスポット

プレミアム車両のデッキにあるカフェスポット

特急列車といえども車内販売のない列車が当たり前になり、乗車前に飲食物を購入しておかないと飲まず食わずで我慢しなければならないことが多くなった。最近の人件費の高騰など諸般の事情を考えるとやむを得ない面もある。

「ひのとり」も車内販売はないけれど、代わりにカフェスポットとドリンクの自動販売機があるので、のどの渇きをいやすことはできる。
「ひのとり」専用のカップ

「ひのとり」専用のカップ

まず、プレミアム車両の車端部デッキにはカフェスポットがあり、コーヒーをメインにココア、紅茶といった温かいドリンクを入手できる。傍らの自動販売機からは、栄養調整食品クリーム玄米ブラン、それに「ひのとり」グッズが自動販売機で買える。なぜか、現金のみでICカードは利用できない。

また、3号車には自動販売機があり、缶コーヒーおよびお茶、ミネラルウォーター、ジュースなどのペットボトルが購入可能だ。
 

「ひのとり」の旅(近鉄名古屋⇒大阪難波)

「ひのとり」の運転台

「ひのとり」の運転台は開放的だ

近鉄名古屋駅の地下ホームを発車した「ひのとり」は、あっという間に名古屋近郊の田園地帯にさしかかる。そして、木曽川、長良川、揖斐川という三大河川を一気に渡ると三重県。桑名、四日市の工場地帯を駆け抜け、鈴鹿付近の平野を通ると津(つ)に停車する。三重県の県庁所在地であり、かなりの乗客が入れ替わる。また、ここで乗務員が交代する。

さらに進み、伊勢中川駅の手前で大きく右へカーブ。中川短絡線を経て、近鉄名古屋線から近鉄大阪線へと駒を進める。目の前には布引山地が立ちはだかるが、「ひのとり」は難所をものともせず心地よいスピードで突っ走る。長大な新青山トンネルやいくつものトンネルを駆け抜け、渓谷を一気に渡り、三重県から奈良県へ。
終点が近づくと天井が青くなる「ひのとり」

終点が近づくと天井が青くなる「ひのとり」

桜井駅あたりからは都市近郊区間に差しかかり、人家が増える。大和八木、大和高田を経て、奈良県と大阪府の境に横たわる山岳地帯を抜けると、いよいよ大阪の郊外へ。布施で近鉄奈良線と合流すると鶴橋駅に停車、地下に潜って大阪上本町に停まり、終点・大阪難波駅で2時間余りの旅を終える。
 

「のぞみ」と「ひのとり」の比較

「ひのとり」PRボード

大阪難波駅で見かけた「ひのとり」PRボード

名古屋~大阪間の移動手段といえば、多くの人は東海道新幹線「のぞみ」を真っ先に挙げることだろう。所要時間は、名古屋~新大阪で50分、運賃+普通車指定席=6680円(通常期)、自由席=5940円となる。

それに比べると、「ひのとり」は最速でも2時間5分なので、所要時間を比べると、その差は歴然としている。だからといって、「のぞみ」は常に満席で「ひのとり」はガラガラということは全くない。「ひのとり」をはじめ、近鉄特急には根強い愛好者がいるのだ。

なぜか?

確かに「のぞみ」の乗車時間は50分と短く、これを凌ぐ速達移動手段は、今のところない。しかし、「のぞみ」の停車駅である新大阪駅は、大阪の中心部とは離れていることを忘れてはならない。

例えば、目的地が大阪の心斎橋であるとすると、新大阪駅から地下鉄御堂筋線に乗り換えて15分プラスしなければならない。難波あたりが目的地なら乗り換え時間や駅構内の雑踏を移動する時間を考慮すると30分ほど余分にかかるかもしれない。となると、目的地によっては、「のぞみ」利用の場合と「ひのとり」利用の比較では、時間差は30~40分程度に縮まるであろう。1分1秒でも急ぐなら話は別だが、多少時間がかかっても快適な空間での移動の方が好ましいと思うのであれば、「ひのとり」を選ぶ人も一定数いるのであろう。

しかも、費用がリーズナブルであれば尚更である。運賃+特急料金(レギュラーシート)=4540円と、「のぞみ」の3分の2程度の出費で済むし、プレミアムシート利用でも5240円なので、「のぞみ」よりも2割以上安くなるのだ。移動する時間帯にもよるけれど新大阪駅から混んで座れるかどうかも確約できない地下鉄に乗るよりは、極めて快適な車両で目的地の近くまで行く方がベターであると判断する人がかなりいるということであろう。
「ひのとり」グッズ・コレクション

「ひのとり」グッズ・コレクション

2020年度のグッドデザイン・ベスト100を受賞、鉄道友の会が制定する2021年ブルーリボン賞受賞と優秀な鉄道車両らしくいくつもの栄誉に輝く「ひのとり」。まだ乗っていない人は、一度体験乗車することをおすすめしたい。

【関連リンク】
「ひのとり」公式サイト


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