転職の損得勘定について、人材コンサルタントが解説
転職の損得勘定を考察する際の「短期的視点」と「中長期視点」
たとえば、あなたが海外事業に関わる仕事をしたいと思って入社した会社が、コロナ禍の長期化を理由に海外事業を大幅に縮小した結果、あなたの担当が国内事業担当に変更となったとしよう。これまで5年間で海外業務の経験を積み、本来ならば海外駐在の順番が自分にまわってくるタイミングに、この事業環境の変化は衝撃である。今後、いつ海外事業に再注力する日かわからなくなった会社にこのまま身を置いて国内事業の仕事に取り組むべきか、それとも海外事業に携わった過去5年間の経験をアピールして、海外事業に注力する新たな職場に転職するべきか悩んだとき、後者を選択する人は少なくないだろう。
このように自分がやりたいことが明確な場合、短期的、及び中長期的視点の両方でみても、ここは変化のタイミングだと決断する人は多く、その傾向は若い世代ほど強くなる。一方、コロナ禍の長期化が予想される中、このタイミングで転職して新たなリスクはないのか、それが心配で行動を控えている人もいるだろう。
転職の損得勘定を正しく評価できるのは、転職後3年が経過してから
まず考えておきたいことは、転職が本当に良い選択かどうかは、転職直後にわかるものではないということだ。もちろん、入社直後にも転職した感想を持つことはできる。いい上司や同僚に恵まれ、入社を歓迎されれば、転職直後の満足度は高いものだ。一方で、不幸にもその逆の状況が待っている場合もある。しかし、前述した事例で考えれば、海外事業に注力する会社へ転職が実現したまではいいが、その新しい環境で自らが実力を発揮し、目に見える成果を出すことで、上司や同僚から一定の評価を得るまでには、ある程度の時間が必要である。通常は新しい職場で3年くらいの時間が経過すれば、本人の性格や勤務姿勢、能力、そして将来性は十分に周囲が把握することになり、会社への貢献度もはっきりと見えてくる。
つまり、転職したことの損得勘定(裏返せば、会社にとって新たな人材を中途採用したことの損得勘定)が評価できるようになるのは、転職後3年程度が経過した時なのだ。新しい会社にどれほど順応できているか、周囲の期待に応え、会社への貢献度に見合う正当な評価を勝ち取ったか、加えて本人が希望するキャリア(この場合、海外駐在)へ一歩前進したかどうか、これらを総合的に判断する。
このように転職の判断が正しかったかどうか(=転職で得をしたか否か)は、転職直後の安心感(=職場の人間関係や仕事内容など)で測るよりも、一定の時間が経過した後で振り返ってみたほうが、より鮮明にわかるものだ。3年から5年周期(もっと短い場合もある)での転職が最も多くなるのも、このためである。
明らかに転職の損得勘定が赤字状態になっていると自覚すれば、新たな職場を求めて転職活動を始めることが現実化してくるのである。場合によって3年以内、例えば入社後半年や1年という超短期間で転職をする人もいるが、それは多くの人が得る転職直後の満足感が得られなかったことがきっかけである場合が多い。
with コロナの時代には専門外や想定外の仕事をこなした経験が評価されることも
つまり入社直後から多少不満足な状態に陥ったとしても(たとえば、面接時に聞いていた話と違うなど)、ある程度の時間経過を経てから、自らの転職の損得勘定を再検証することを考えたほうがいい。そうでないと、運が悪ければ、短期間の転職を繰り返してしまうこともあるからだ。最初は不満足な状態でも、少しずつ改善していく場合もある。またwith コロナ時代にあっては、従来のグループ内の出向にとどまらず、異業界や想定外の職種に就く出向が起きることもある。会社も生き残りをかけて、コロナ以前では考えられない配置換えなどを行うことも増えているからだ。
短期的に見れば、自分が望むキャリアの断絶が起きているがゆえに、従来であれば、自らの転職市場での評価が落ちることを懸念して早々に転職活動に踏み切る人もいた。しかし、コロナ禍の影響は特定の会社や業界で発生しているものではなく、どの業界や職種においても、幅広い世代にわたり、全体的に影響が生まれている問題である。このため、個人のキャリアの継続性に関しては、今後、従来よりも柔軟な見方が広がるのではないだろうか。
転職市場では、スペシャリストとジェネラリストの評価に関して、いろいろな意見が交わされてきた。どちらかといえば、コロナ以前はジェネラリストよりもスペシャリストが好まれる傾向が強まっていたが、想定外の事態が続くwith コロナの時代には、幅広い経験を積んだジェネラリストへの注目が採用現場では勢いを取り戻しており、今後コロナ禍が長期化する中でジェネラリスト志向が強まる可能性があるのではないだろうか。
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