『おおかみこどもの雨と雪』の注目ポイント:ビンにささった「花」
ビンにささった「花」は、シーンによって変化しています。例えば、主人公が妊娠した時は「3つのビンに花がささっていた」のですが、出産の直前には「花のささったビンが4つに増えていて」、おおかみ男の“彼”がいなくなった時は「1つのビンにだけ花がささっている」のです(他にも細かい変化があります)。このビンにささった花は、主人公の「希望」とも解釈できます。妊娠や出産のときには花が増えていくけど、“彼”がいなくなると花もなくなるという形で「喪失」を表すかのように……。このビンにささった花は、後半で田舎に引っ越した後にも次々と種類が変わっているので、ぜひお見逃しなく!
『バケモノの子』の注目ポイント:自分自身を象徴する「白鯨」
劇中ではハーマン・メルヴィルの長編小説「白鯨」が引用されています。元の小説における白鯨は船長の片脚を奪った復讐の対象でしたが、『バケモノの子』における白鯨は「自分自身」と解釈できます。そして、劇中に登場する少年“一郎彦”は、主人公の“九太”とは合わせ鏡のような、「そうなっていたかもしれない」人物です。彼らが「親代わりとなる人にどう育てられたか?」「彼らは何を目指していたのか?」にも、ぜひ注目してみてください。
『サマーウォーズ』の注目ポイント:「普通」の人の「特別」なところを肯定する
劇中で登場する親戚の人々は、陸上自衛隊に所属している男性や、ヤンキー風で口の悪い警官など、個性的ではありますが「普通」の人ばかり。本作で肯定されるのは、その普通の人の「特別」なところ。彼らの仕事や人生や性格が、世界を救う手段につながっていくのです。そして、元教師のおばあちゃんは長い人生で培った幅広い人脈が、格闘ゲームの世界チャンピオンの少年は世界中にファンがいたことが、大きな力となっていきます。“アナログ”と“デジタル”の両方の世界をも、肯定している作品でもあるのです。
細田守監督作品に共通する作家性とは?
細田守監督は自身の経験や、親しい家族の姿を作品に投影しています。例えば、『おおかみこどもの雨と雪』は知り合いの母親がカッコよく見えたこと、『サマーウォーズ』は妻の実家で親戚一同が集結した時の驚きと戸惑い、『バケモノの子』は「自身の息子はどうやって成長していくのだろう」と考えたことが製作のきっかけになっています。だからこそ、「今の出来事は“家族あるある”だな」「こんな人は現実にもいるなあ」と感心できるリアリティと普遍性を持っているのです。さらに、細田守監督作品は「異なる2つの世界のはざまにいる主人公が、責任を持って自分の道を選んでいく」ことも共通しています。舞台は日本の現実世界でありながら、おおかみ男、動物たちの世界、インターネットの仮想空間など、ファンタジー世界が侵食してきているのです。そのファンタジーが現実と地続きであり、子育てや人間関係など、現実の大変な事柄のメタファーにもなっているからこそ、細田守作品は多くの人からの支持を得ているのでしょう。
最新作『竜とそばかすの姫』は「過去作品の連続性上にある」
細田守監督は、7/16公開の最新作『竜とそばかすの姫』について「過去作品の連続性上にある」と考えており(※1)、『おおかみこどもの雨と雪』とは親子の話であるという接点があり、『バケモノの子』とは“擬似家族”というテーマ性、『サマーウォーズ』とはインターネット世界が舞台という大きな共通点もあるため、今回の金曜ロードショーの3本は素晴らしいラインナップだと述べています。ぜひ、劇場で『竜とそばかすの姫』も観て、連続性のある細田守監督の作家性を堪能してみてほしいです。
【参考】
※1 金曜ロードショー公式HP(https://kinro.ntv.co.jp/article/detail/20210528)